研究課題/領域番号 |
18K01736
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
本内 直樹 中部大学, 人文学部, 准教授 (10454365)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 第二次世界大戦 / イギリス / 社会主義 / G.D.H.コール / オックスフォード大学 / 戦後再建・戦後復興 / 福祉国家 |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次大戦期下のイギリスでオックスフォード大学のG.D.H.コールが主宰する「ナフィールド・コレッジ社会再建調査」(1941~1944年)の調査活動の実態を明らかにし、様々な分野における戦後再建政策にもった意味を実証的に明らかにする。 本年度は以下の点を明らかにできた。(1)特に戦後福祉国家の重要な構成部分をなす「教育問題」を取り上げ、前年度に収集した現地一次資料(コールの個人資料、政府未公刊資料等)に基づき戦時下の「教育調査」の実態と、(2)教育再建問題についての非公式会議「プライベート・コンファレンス」の議事録の分析を通して産業界・教育界・政治家らの具体的提言内容と中央政府への指針を意味した提言書の内容を明らかにできた。(3)コールらは、戦時の疎開が学童児童に与える影響、教育サーヴィス、成人教育、教育建物の再建、パブリックスクールの存置、中等教育の改革など戦後の教育再建に関する調査報告書(計7本)を政府や教育庁に提出し、戦後再建政策の議論に重要な一石を投じたことを明らかにできた。(4)中央政府レベルでの賛否複雑な反応も踏まえつつ、総合的には調査内容の多くの部分が「バトラー教育法」(1944年)に反映されたものと一定程度の意義を確認できた。 研究成果として、本内直樹・松村高夫「第二次世界大戦下オックスフォード大学ナフィールド・コレッジの教育調査、1941年~45年-G.D.H.コールの教育改革構想-」『中部大学人文学部研究論集』第44号(2020年7月)を公刊できた。 今後は戦時下の「産業調査」と「完全雇用問題」の検討を通じて「ナフィールド社会再建調査」が戦後政策・法制度の形成に持った意味を分析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると評価した理由は、新型コロナウィルスの影響でイギリスへの現地資料調査ができなかったとはいえ、これまでの研究成果を論文(共著)として公刊できたこと。目下、進捗状況については、(1)イギリスを代表する社会主義者G.D.H.コールが主宰するナフィールド・コレッジ社会再建調査(1941~44年)における「産業調査」について、これまで収集してきた一次資料(オックスフォード大学図書館にてG.D.H. コールの個人文書、社会再建調査の調査原票)を基に実態解明を進めることができた。(2)戦後経済政策の重要な柱となる「完全雇用」をめぐる議論(コール、ケインジアン、ベヴァリッジ、産業界の間の)については、すでに収集してきた一次資料(プライベート・コンファレンスの議事録等、LSE図書館、英国国立公文書館の各省庁の未公刊資料)を基にその討議上の見解の相違を具体的に明らかにできた。(3)コールが再建省・商務省・土木建築省や中央政府へ提出した各種報告書、官僚との往復書簡の分析を通して、戦後の産業配置法・完全雇用政策をめぐる学者・産業界・政府官僚の議論を具体的に明らかにできた。(4)戦局の変化による中央政府・省庁の戦後再建に対する態度の変化、政府補助金停止によるナフィールド調査の限界も明らかにできた。(5)しかしそれ以上に「プライベート・コンファレンス」で討議した内容がベヴァリッジや進歩的産業人に刺激を与え、彼らの一つの運動が「雇用政策」白書の実現を促したことを明らかにできた。 研究途上では、英国人歴史研究者ニック・ティラッソー教授から二次文献について有益なアドヴァイスを頂くこともできた。本研究の研究協力者である松村高夫(慶應義塾大学名誉教授)との次作の共著論文の投稿準備が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、G.D.H.コールが主宰するオックスフォード大学ナフィールド・コレッジの「産業調査」と「完全雇用問題」に関する研究論文の投稿準備を進めていく。ナフィールド社会再建調査が、産業配置の問題・完全雇用政策の実現に結実していった点が明らかになったことで、次の課題は、ナフィールド社会再建調査が実施した「都市計画」「地方行政」の戦後再建問題に的を絞る予定である。第二次大戦下の社会科学研究の動向と関連付けて検討を進めていく。2020年度中は新型コロナウィルスの影響によりイギリス現地資料調査ができなかったことから今後の研究遂行の上で追加の資料収集が課題となる。とはいえ、一方で現地イギリス史研究者から蔵書(社会科学者、専門家、企業家、社会主義者による同時代出版物)を譲り受けることができたので今後は補完的にそれらの同時代資料の分析が期待される。「都市計画」「地方行政」の問題を統一的に捉えることで、さらに戦後再建の総合的理解が進んでいくことも期待される。これまで収集できた一次資料と新たに入手した同時代文献を基に可能な限り、コールを中心とする社会科学研究者の研究動向を辿っていき、彼らの中央政府へ向けた指針となる報告書に対する官僚の反応を探っていくことが求められる。そのために2022年2月にイギリス資料調査(英国国立公文書館・オックスフォード・ナフィールド・コレッジ図書館)を予定している。出版計画も検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、8月と2月に予定していたイギリスへの渡航が中止となり、資料調査を行うことができなかったため、旅費を繰越すこととなった。そこで2021年度はコロナ収束の予測される冬季にイギリス出張を行い、文献複写代と文献購入費等と合わせて使用することとした。
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