研究課題/領域番号 |
18K01736
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
本内 直樹 中部大学, 人文学部, 教授 (10454365)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第二次世界大戦 / イギリス / G.D.H.コール / 産業調査 / 戦後再建・戦後復興 / 社会主義 |
研究実績の概要 |
2021年度も新型コロナウィルス感染拡大の情勢により、イギリス現地で新たな資料調査を行えなかったが、すでに入手済みの資料や文献を基に研究を進めた。第二次大戦下のイギリスでオックスフォード大学のG.D.H.コールが主宰する「ナフィールド・コレッジ社会再建調査」(1941~1944年)の様々な調査活動のうち、2021年度は戦後経済政策(雇用・産業)に向けた戦時産業調査を取り上げ、一次資料(調査原票、政府未公刊資料等)に基づき各地域の産業実態と、戦後の完全雇用に向けた一連の会議の議事録の分析を通して企業団体・資本家・学者らの提言内容と政府に向けた提言書、最終的には1945年の産業配置法の成立にもった意味を明らかにした。 具体的には産業調査の以下の点を明らかにした。(1)中央政府が従来無視してきた非基幹産業である中小規模産業に焦点を当てたこと。(2)「地域調査」と「全体調査」の両側面からアプローチした点で地域内外の産業・雇用バランスを俯瞰的に析出した点。(3)従来の政府統計が理論的・抽象的であるのに対して本産業調査は「実際的」な性格をもった点。(4)産業調査の成果が産業配置法(1945年)に一定程度結実し、戦後アトリー労働党政権の下での戦後改革の制度設計に一定程度の効果をもった点。以上のことから「ナフィールド調査」が戦後改革の制度設計(産業配置法・完全雇用政策)において重要な役割を果たしていたことを明らかにした。 2021年度の業績として、本内直樹・松村高夫「第二次世界大戦下オックスフォード大学ナフィールド・コレッジの「産業調査」、1941年~1945年」『中部大学人文学部研究論集』第47号(2022年1月)を公刊。社会経済史学会編『社会経済史学事典』「ヨーロッパの郊外化」執筆担当(丸善出版、2021年)。今後は非公式討議の議事録分析から完全雇用政策・産業再建をめぐる政策合意形成のありようを分析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況としては(1)G.D.H.コールが主宰する「ナフィールド・コレッジ社会再建調査(1941~44年)」の諸活動のひとつ「産業調査」について、これまで収集してきた一次資料(オックスフォード大学図書館にてG.D.H. コールの個人文書、ナフィールド・コレッジ社会再建調査の調査原票)を基にその実態解明を進めることができた。(2)戦後経済政策の重要な柱の「完全雇用」をめぐる議論(コール、ケインジアン、ベヴァリッジ、産業界の間の)について一次資料(プライヴェート・コンファレンスの議事録等、LSE図書館、英国国立公文書館の各省庁の未公刊資料)を基にその討議でみられた見解の相違を具体的に明らかにできた。(3)コールが再建省・商務省・土木建築省や中央政府へ提出した各地方の産業調査報告書、官僚との往復書簡の分析を通して、戦後の産業配置法・完全雇用政策の立案に至るまでの過程において学者・産業界・政府官僚の間の議論を一定程度、明らかにしている。(4)戦局の変化による中央政府・省庁の戦後再建への姿勢の変化、政府補助金停止によるナフィールド調査が経験した限界も明らかにできた。(5)今後は上記した「プライベート・コンファレンス」で討議されたテーマ(完全雇用政策・産業再建の問題)をめぐる資本家・学者・各種産業団体などの議論の内容を議事録の分析を基に進めていく。ナフィールド調査が、戦後の経済政策や産業政策にいかなる意味をもったのか、戦後改革(経済領域を中心に)における意義と限界を明らかにしていく予定である。 2021年度もコロナ禍ではあったが、イギリス人歴史研究者ニック・ティラッソー教授から二次文献について有益なアドヴァイスを頂くこともできた。本研究の研究協力者・松村高夫(慶應義塾大学名誉教授)との共著論文も1本公刊しており、目下、投稿予定の論文を準備している。2022年度夏には資料調査を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
G.D.H.コールが主宰するオックスフォード大学ナフィールド・コレッジの「産業調査」と「完全雇用問題」に関する論文投稿準備をする。ナフィールド・コレッジの産業配置政策・完全雇用政策に向けた調査活動と討議内容の分析を通して戦後経済政策(戦後改革)に貴重な役割を果たしていたことを明らかにした後は、ナフィールド調査が他にも実施した「都市計画」「地方政府」「国際問題」の戦後再建問題を各論ごとに取り上げ、第二次世界大戦下のイギリス社会経済再建の課題を当時の社会科学研究の動向と戦後の制度設計との関連性について分析を進めていく。 2021年度はコロナ禍でイギリス現地資料調査が不可能であったことから今後の新たな資料収集が課題となる。都市計画・地方政府・国際問題に関する基礎的な資料はある程度収集済みではある。2022年8月~9月上旬にイギリス資料調査の予定でいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も新型コロナウィルス感染拡大の影響のため、イギリスへの海外資料調査が不可能になったことにより、海外渡航費等の未使用額が生じたため。しかしながら可能な限り研究に必要な二次文献等を購入し研究の遂行に役立ててきた。今年度の未使用額を来年度のイギリス出張(2022年8月~9月)に当てる計画である。
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