研究実績の概要 |
ここ数年は新型コロナ・ウィルス感染症拡大の情勢のため渡英(資料調査)できなかったが,本年度(最終年度)は現地で資料収集を行うことができた。第二次世界大戦期イギリスの社会科学研究が戦後再建・福祉国家の実現化に与えた影響を解明するため,イギリスの経済学者G.D.H.コールが組織した「オックスフォード大学ナフィールド・コレッジ社会再建調査」(1941~44年)の諸活動に関して,2022年8月~9月にオックスフォード大学ナフィールド・コレッジ図書館や国立公文書館,LSE図書館にてコールの個人文書,戦後再建討論会の議事録,商務庁の未公刊資料を収集し分析できた。また戦後再建における完全雇用をめぐるケインジアンと企業家の討論内容と論点を整理できた。 その結果,(1)コールが企業家・経済学者・専門家・労働組合指導者・党派を超えた政治家を一堂に集め、自由で民主的な議論の場を用意した点,(2)討論の結果,コールが戦後の雇用問題と産業組織について「統一的見解」をまとめ政府に提出したその提言書の内容,(3)コール主宰の討論会がベヴァリッジの完全雇用論の完成に貢献した点などを明らかにできた。(4)コールとケインズの未公刊往復書簡を分析し,両者の戦後再建構想の違いを明瞭化できた。以上,戦時下イギリスの社会科学研究に基づいた調査結果が戦後改革の制度設計の上で重要な根拠として活用されていたことを実証的に明らかにした。 最終年度は論文を刊行できなかったが草稿は完成している。本研究期間全体では,研究協力者との共著論文3本,書籍(寄稿論文1本),事典(担当項目)等を公刊した。発表成果としては,本内直樹「戦時下イギリスの社会調査―G.D.H.コールのナフィールド・コレッジ社会再建調査1941-1944」青山学院大学経済学部経済研究所ワークショップ第1回(招待), 青山学院大学, 2018年9月13日を行った。
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