研究実績の概要 |
19世紀後半に中国で登場した新たな貿易管理機構である海関は、それ以前に長期にわたり存続した清朝と東アジア・東南アジア地域との朝貢貿易をどのように引き継ぎかつ改変するかという課題に直面した。旧朝貢国の中にはシャムのように無条約国となった国があり、この条件の下で貿易関係を如何に扱うべきかをめぐり新たな対応を迫られることになった。 本研究では、この無条約国との貿易に関して、初期の中国海関がいわゆる朝貢関係と条約関係の間を揺れ動いた実態を統計処理の側面から検討し、これまで西洋諸国との関係を重視してきたアジア近代経済史像を再構成することを課題としている。 2023年度においては、主に1850年代後半から公刊されている初期海関統計資料ならびにこれまでに収集した資料を検討した。イギリス側は、British Library, Public Record Officeにおいて収集した史料を中心とし、香港、広州、マカオなどにおける貿易関連の史料を検討した。並行して、タイ国立公文書館、タイ国立図書館などで、タイ側史料の検討を研究分担者が実施した。また、香港貿易統計並びに船舶統計資料の調査は研究代表者が継続しておこない、公式の貿易統計に現れない香港の自由港という貿易管理の特質について検討した。これらの資料検討の成果の一部を、研究代表者はオンラインで参加した香港中文大学アジア研究所主催『全球潮人与一帯一路』国際会議において、「亜洲沿海港口城市網絡与潮州商業網絡」という題目で発表した。また研究分担者は、「ラーマ五世(チュラーロンコーン)」(重松伸司他著『アジア人物史第11巻 世界戦争の惨禍を越えて』集英社、2023年)として刊行した。
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