大正期大労働争議の構造と歴史的位置 ―「全三池争議」の分析―

2018 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K01742
• 研究機関: 公益財団法人三井文庫
• 研究代表者: 春日 豊 公益財団法人三井文庫, 社会経済史研究室, 研究員 (10099997)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 三池炭礦 / 万田騒擾 / 全三池争議 / 三池製作所 / 労使関係 / 三井鉱山 / 地域社会 / 職員・労働者意識

研究実績の概要

本研究の目的は、日本最大の炭礦である三池炭礦とその関連企業で発生した1924年の「全三池争議」の全体像とその特徴を解明し、その歴史的意義を検討することである。そのために、初年度である平成30年度（2018年度）には資料収集と分析方法の構築に重点をおいて研究を進めた。
資料収集では、九州大学付属図書館付設記録資料館に所蔵・寄託されている石炭協会九州支部資料の三池炭礦関係資料・支部管内統計資料、福岡県市町村公文書館・福岡県立公文書館所蔵の駛馬村・銀水村資料・福岡県会事蹟資料、福岡県立図書館所蔵の福岡日々新聞・九州日報の「全三池争議」関連記事等を収集した。これらの資料は、三池争議と地域との関係を解明する上で不可欠である。今後その分析を進めるが、新聞報道は５月から７月まで連日詳しく争議の推移を報道しており、地域の並々ならぬ関心の高さが示されている。その報道内容の分析方法を模索し、そこから地域の争議に対する意識・見解の一面を明らかにした。
東京の三井文庫には2,000点を上回る戦前の三池炭礦資料が所蔵されており、その中から「全三池争議」関係重要資料、同争議の前提ともなる「万田騒擾」（大正７年）資料を選択して調査収集を実施し、今後の重要な分析の基礎を整えている（継続中）。また「本店往復」「本店達」「福岡鉱山監督局往復」などの膨大な資料を読込み、重要内容の筆写・要点の集約を行ないつつ、争議に対する経営側の対応さらにその対応を通しての企業経営管理層の意識（労働組合に対する認識、時代認識など）と労務管理の変化などを読み取っている。上記資料から労務管理の大きな変化が生じているのが判り、「全三池争議」の歴史的意義が看取でき、研究史的にも重要な成果と考えている。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

やや遅れている理由は以下の２つに起因している。１つは、『愛知県史　通史編近代３』の刊行（2019年3月）と重なり、同書の編集責任者として諸問題に対処して刊行したために、想定以上の大幅な時間を要したこと、もう１つは調査対象機関および協力者との日程の調整や手続等に手間取ったこと、このため予定の調査・作業を充分進めることが出来なかった。

今後の研究の推進方策

２年目の本年度は、前年度では調査が出来なかった大牟田市・荒尾市とその周辺地域資料の調査、大牟田市に所在する三井鉱山関係企業調査（主に三池製作所）、全国的な世論・論説などの資料等を調査しつつ、以下のデータ入力・撮影と分析を進める。争議前後を中心とする企業経営動向資料、労務管理と労働者の存在形態および労働者の組織の資料、「万田騒擾」「全三池争議」（三井文庫所蔵）の直接的資料がその主である。これらの作業を進めるために、助成金は資料調査や打合せの旅費、データ入力のためのアルバイト雇用、資料撮影・製本の専門業者への注文費用、関連する図書、必要な消耗品に充てる。

次年度使用額が生じた理由

分析に必要な資料の保存状況を調査するにあたり、調査対象機関および協力者との調整、手続き等に時間を要したため、予定していた資料調査を次年度に持ち越すことにした。上記の機関および協力者との調整を引き続き行い、当初計画のとおり資料調査を実施する。
また、本研究にとって有用な資料の情報をデータベース化する計画であったが、高度な専門的知識（歴史資料および炭鉱に関する知識）を有するアルバイトを十分に確保することができなかった。そのため、人件費・謝金の支出が予定よりも少額となった。繰り越した金額の一部は、アルバイト雇用を増やして予定どおりデータ入力をすすめ、謝金として使用する計画である。