研究課題/領域番号 |
18K01748
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
綿引 宣道 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (90292135)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 産業クラスター / 産業集積 / 異業種交流 / 地主 / 石油産業 / 繊維産業 / 学校 / 鉄道 |
研究実績の概要 |
申請時において、大まかに3つの論点で申請した。 1明治期における企業間の取締役兼任の状況から企業家ネットワークを可視化し、中心性分析を複数年度行い産業集積の形成のプロセスを明らかにする。これはどのような中心性を持った役員あるいは企業がいるネットワークが産業を発展させるのかを知るためである。そもそもヨーロッパ型資本主義経済であれば、同業種でかつ生活圏内にある企業があればライバル関係になり、取締役の兼任はあり得ないが、これまでの調査で兼任していることが分かっている。 2 会社弁で設立された時代と徐々に法令ができていく時代、日清戦争、日露戦争という政治的、経済的インパクト、業種と企業家ネットワークの変化の関係を明らかにする。法制度がない段階での共同体制、日清戦争による好景気による起業ブームと日露戦争以降の安定期に大きく分けられることが、企業総数の比較で明らかになっている。これは、日露戦争以降では新規設立企業はあるが、ほぼ同数の統廃合が起こっている。 3 当時の代表的企業の取締役の地理的分布から、鉄道や橋といった交通手段が変化する事のインパクトを明らかにする。この論点では、天領や藩の陣屋があったところでも明治維新以降の産業化のペースには大きな差があることが分かっている。これは豪商や豪農がいるところであっても、協力体制を組むところとそうしないところがあることが分かった。また、異業種交流会のようなものの影響が大きいことが分かっている。こういったものが形成されるには、地理的状況が大きい可能性がある。小千谷や十日町のような地域では山が多く冬の積雪の問題、村上や上越では帰農する土地不足から移住者が多かったなどの背景から、異業種交流会ができにくかった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『日本全国諸会社役員録』の新潟県の部のデータベース化は昨年度末に完成したので、これまでの納品分について逐次明治41年頃までデータ解析した。その結果、取締役のネットワークについて、①当初の予想通り非公式的な勉強会や異業種交流会のような団体がネットワーク形成に大きく影響を与えている可能性がある、②会社形式にしていない個人経営の豪商と地主の多寡影響も少なからず影響していそうだと分かってきた。特に、維新直後に士族と商人階級、大地主との協働が作られたか否かが鍵になりそうだ。ただ、こういった異業種交流会に関する詳細な資料は所在を確認できた。 歴史GISの構築については、入力に手間がかかっており明治28年と35年の2つは完了した。山や川は人が日常的に移動するには障壁であり、同時に藩あるいは天領との境でもあった。明治になっても、それをまたいで起業家ネットワークが形成されにくいことが分かった。川汽船や隧道や橋によって確かに人の活動範囲は広がったが、それでもなお山や川を超える、線路を超えることへの心理的障壁がありそうだ。 予期しなかった問題として、1)歴史GISについてはレイヤーが増えるに伴い、PCの動作が非常に重くなっており作成が難しくなってきている。他研究室と相談の上、PCの改造あるいは買い替えが必要になりそうである。2)また社会インフラの発達や高速移動手段による距離に関する感覚の変化の測定が必要になった。この点については、人文地理学の手法による認知距離の研究と感性工学による距離の感性評価の援用が必要であるが、この2つの分野でもそれほど多くの研究がなされているわけではない上に歴史の観点から解明している研究が見当たらない。3)地主と豪商については殆ど法人化しなかったため、『日本全国諸会社役員録』には掲載されておらず、彼らを加えたネットワークを解析するには別予算でデータベース化する必要が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の申請書通り、取締役並びに新潟全県レベルでの企業のネットワークの形成の解析について、続けて明治45年まで完了させる。続いて平成の大合併前に市(主に藩があった、あるいは天領の陣屋があった)だった地域ごとにネットワークの形成について比較を行う。当時の会社の取締役が持つ社会関係資本がどのような状態であったか、その人的ネットワークがどのような影響をその後与えたか、どのような中心性を持った人物が活躍したかを明らかにしていく。このときに、①現在まで確認できている異業種交流会のメンバーと県議会議員ならびに国会議員のデータを新たに加えて、これらのネットワークとどのような関係にあったかを確認する。②藩校あるいは寺子屋の維持が一種の異業種交流会の様相を呈しており、これを検討対象に入れる。③学校が公立化した後は別の名目で集まる地域とそうでない地域があるため、その要因を探る。④異業種交流会の資料と地主のデータベースも必要であるが、これは予算を本研究で申請していなかったので申請者が入力中であり、民間の研究助成財団への申請を含め3年目に間に合わせるようにする。 地理条件とネットワークの形成については、先述したようにGISを作るのに予想以上の時間を必要としており、ここに注力することにする。なお、道や橋や隧道などの社会インフラと人の動き、距離感に関する研究はまだ発展途上であり、本研究の説明にはまだ使えない状態である。この論点についてのみ学内で研究会を作り、感性工学の研究室が主となって調査を行い、こちらはそれに協力するという形をとっていく。
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