今年度は最終年度のまとめであり、より実務に対するインプリケーションを重視した研究を行った。環境が急激に変化する時代には経営状況の一時的な悪化に対する柔軟な対応が不可欠となり、我慢強く組織を牽引する原動力が求められる。成長の原動力を探す手立てとして、本研究は組織の本質を表す組織アイデンティティという概念に注目した。『日経ビジネス』に発表した文章では、日米中の三ヵ国の比較研究を行い、組織に適合する人材を求める日本企業の特徴を分析した。更に、三井物産の事例を取り上げ、企業理念と価値がどのように組織の原動力として機能するかを検証した。 また、二度の学会での招待講演を行った。「組織におけるアイデンティティ構築」の講演では、組織的アイデンティティ・ワークが内発的または社会的動機付けを介して関係的と集団的アイデンティティの構築に影響するメカニズムの実証分析を行い、その結果を報告した。一方、「日本企業の存在意義: 日本らしさの継承と革新」の報告では、21世紀以来日本企業に関する研究の中にアカデミックの世界で注目されたものを整理して、日本企業における代表的な「京モデル」の分析を行った。特に、オムロンと京セラの事例分析を通して、創業者が失敗を恐れず果敢にチャレンジを重ねながら、独自の技術・製品を投入して市場を大胆に作り上げただけでなく、労使対立を克服して信頼をベースに成長したプロセスを経て、戦略・市場・成長を支える思想・哲学の基盤こそが日本企業らしさを表すものと考察した。
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