研究課題/領域番号 |
18K01757
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥居 正樹 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (20363260)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 事業転換 / 技術の価値 / 文脈導出 |
研究実績の概要 |
本年度の訪問調査で焦点を当てたのは、新領域をどのような文脈の下で探索し、自社技術をどのように活かしたのかという点であった。先行研究では自社技術をそのまま別市場に横展開することで事業転換を図るという事例が報告されているが、調査対象ではこうした横展開は失敗に終わっていた。その理由は、馴染みの薄い探索先で競合企業を凌駕するような技術力や顧客が誘引されるような新たな価値が提案できず、競争の土台に立てなかったためである。そこで生業の製品の加工先となる領域から新たな事業を模索していた。具体的には、目先の顧客が抱える困りごとに焦点をあて、その解決に必要となる事業が生業とは全く異なる領域であっても敢えて参入することであった。新しい事業領域に参入して真新しい技術を習得し、それを使いこなす職人を育成するには経営資源を集中投資することになり、先行きも不透明になる。そこでは生業との軋轢が生じ、これまでに培った経験や技術を棄てるように見える。しかし、やがて新しい事業領域での技術を習得して生産機械を使いこなす段階に至ると、生業で培ってきた経験や技術を活かした工夫や試みが活かされるようになる。これが同業他社とは異なる機械の使いこなしや改造の勘所となり、探索先での成長要因となっていた。 生業での成功体験があるにもかかわらず未知の事業領域へ飛び込み、そこで必要となる異分野の技術を一から習得することは、短期的にはこれまでの経験や既存技術をないがしろにするように見える。しかし長期的には既存技術を新領域で形を変えて応用する機会となり、それは差別化の要点となり得る。生業のものづくりを支えている経験や技術は直接的に目にすることができない隠れた側面があり、事業転換ではそれを新領域での技術に融合させるような関係性(文脈)を見出すことが重要な要因であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
調査研究に遅れが生じているのは、新型コロナ感染症およびロシア・ウクライナ危機の影響により、企業からの調査協力が得にくくなっているためである。特に欧州での訪問調査は、調査対象の組織変更等によって仕切り直しが必要となったため、調査が先送りとなっている。そのため研究計画に対して遅延が生じているが、可能な限り挽回に努める。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はコロナ感染症の世界的な流行もおさまる傾向にあるが、ロシア・ウクライナ紛争や金融危機など問題は多発しており、企業が落ち着きを取り戻すまでにはまだしばらく時間を要することが見込まれる。欧州企業の訪問調査は、引き続き調査依頼と各種調整を調査対象企業に行い、監督官庁の指示等に従いながら速やかに実施するように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は新型コロナ感染症の世界的流行が続くだけでなくロシア・ウクライナ紛争の影響により、予定していた国内・海外企業への訪問調査が先送りとなったため、次年度使用額が生じた。2023年度は新型コロナ感染症が落ち着いてきたことから、8月以降に欧州企業の訪問調査を実施する。また国内企業についても調査依頼を順次行い、承諾が得られたところから実施する。
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