本年度は第4の課題である技術の意味読替のメカニズムについて検討するため、欧州調査に取り組んだ。しかし欧州でも技術の意味読替事例は少ない。そこで読替とは既存と異なる意味を見出しながら新しい物事に置換することから、日本人と欧州人との間にある発想や発見の導き出し方の違いについて調査を行った。そこで明らかになったのは、欧州では自分に素直で、思ったことや正しいと感じることを忖度なしに声に出して議論するのに対し、日本人は議論したことをどう実現するかという方法論に焦点をあてがちという点であった。 欧州人の意見や目標は日本人にとっては突拍子もないものもあるのだが、それは既存のロジックに依拠せず全く新しい視座からあるべき姿を見据えるためであった。議論ではその場で正答を出し切ることなく時間をかけて互いに意見を出し合う。こうして様々な選択肢を挙げながら最適解を模索する。こうした傾向はメーカーに限らず銀行やコンサルティングといった非製造業でも確認された。 従来からの発想方法や考え方といった常識に縛られ、選択肢が拡げられないというのは漸進的イノベーションをベースにする日本的経営の課題と指摘できる。駐在員は本社と現地法人との板挟みの中、こうした論理の飛躍を従来からの論理を組み合わせて説明するために頭を悩ませていた。日本人としての気質や伝え方は急には変えられず、対処療法的に対応していると考えられる。 これまでの調査研究から、技術の意味読替は、①既存の考え方などに依拠することなくあるべき姿や目標を、評価を高めたいという野心とともに設定し、その実現において従来とは全く異なる文脈を新たに導出する方法と、②従来どおりの文脈の延長線上に目標を設定する考え方とが存在し、その実現において従来どおりの文脈を活かしつつ異なる事業領域を探索するような漸進的な方法がある。これらはそれぞれ分けて検討する必要がある。
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