近年,企業や自治体などの組織においては長時間労働による疲弊や,仕事と家庭との調和がとれないことによる苦悩など,従業員のワークライフバランス(WLB)に起因する問題が多く存在している.中にはうまくバランスがとれずに離職するケースもあり,これが特に管理職や技能労働者の場合は替えがきかず,組織によっては大きな損失に繋がることもある.政府もこのような状況を社会問題として捉え,2017年1月の国会で「働き方改革」を提言している. しかし,改革案としてのアイデアは様々なものが実施されているものの,それらの効果測定はほとんど行われていない.これでは案が有効であったのか判断ができない.案の効果を測るためにはWLBに対して定量的に把握する必要があるが,従来のWLB研究では定性的なアプローチ(ケーススタディ等)が採られることが多く,対応が難しい.定量的な研究も,労働生産性や従業員満足度などに重きをおかれ,WLBの本質である多様性を評価できるようにはなっていない. このような状況の下で本研究は,個人の持つ「時間」を資産と捉え,その運用状況について貸借対照表を援用したワークライフバランスシート(WLBS)を開発し,状態としてのWLBの定量的な把握を行った.また,自身の時間に余裕があるかどうかと他者からの援助があるかどうかをクロスプロットさせたワークライフバランスポートフォリオ(WLBP)を作成し,WLBの可視化とその効果を検証した. 折しもコロナ禍で予定した企業へのアンケートができなくなったが,方向性を微修正し,調査会社を通じて全国の労働者約1200名へアンケートを行い,コロナ禍によるWLBの変化を定量的に捉えることに成功し,その効果を十分示すことができた.
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