研究期間を通じて,画像半導体産業について歴史的事例研究を行い,企業のイノベーションへの適応行動を考察した。同産業はメジャーな技術変化によって,新興・既存,専業・統合・多角化型の様々な企業が混在するグローバルな産業構造の変化を経験している。各国の制度環境と新興企業の台頭,用途市場の生成発展と,しばしば困難とされる既存企業の適応プロセスを観察した。 平成30年度と令和元年度には,既存研究を整理し産業発展のモデル,新興企業の勃興と既存企業の対応,交代の論理や概念枠組みを見た。また令和元年度からは画像半導体産業の技術・市場面の発展について,学会誌や企業報告書等様々な資料を地道に収集し,地域毎にまとめていく作業に従事した。 令和二年度は,新型コロナウィルスの世界的流行に伴う厳しい制限と社会的混乱から面会一次調査が困難になり,止むを得ず代替的に二次資料のオンライン取得と考察を行った。研究作業が大幅に遅れ発表に至っていないものの,既存研究の説明経路を補完する幾つかの知見を得ることができた。 1.制度環境に加え,工程汎用性と分業構造の変化が新興企業と隣接業種の参入を促した。2.新用途市場の障害は,規模よりも競争圧力であった。3.同用途市場自体に構造変化が起き,新旧企業の市場地位を変えた。4.主導企業は,新旧複数の用途市場への導入から,新技術に投資・事業化し競争優位を維持した。5.既存企業の他製品他事業の状況が,イノベーションと構造変化への適応行動に影響していた。以上の知見は,専ら投資インセンティブや資源能力,認知,専門化の観点を強調して適応行動を論じてきた既存研究を補完していると考えられる。今後さらに考察を重ねたい。
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