研究課題/領域番号 |
18K01771
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大月 博司 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (50152187)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 純粋持株会社 / 事業子会社 / 自律性 / 規律性 / 意図せざる結果 / グループ経営 |
研究実績の概要 |
純粋持株会社の事業子会社に求められる自律性(子会社内のコントロール)と規律性(グループ経営としてのコントロール)の関係を明らかにし、組織として持続的な価値創造ができる純粋持株会社のあり方を探求した。今年度の実績は以下の通りである。 一昨年までに明らかにされた仮説に関して,多様な純粋持株会社化現象をもたらす要因とそれらの関係性、純粋持株会社生起のプロセス、そしてその結果について総合的に研究を深めた。そしてとりわけ、純粋持株会社化に影響する要因の特定化とそれらの関係性の解明をさらに図った。その際に、研究蓄積を行ってきた純粋持株会社化現象の事例ベースの実態分析・業界分析を進め、3つにまとめた純粋持株会社に移行するパターン類型の妥当性を検討した。すなわち、上場子会社を100パーセント子会社化するパターン,新規事業の拡大を意図したM&Aによる子会社化のパターン、既存の事業子会社の再編成パターンである。そして、昨年度に限界が明らかになった自律性と規律性の2次元モデルの再定式化を進めたが、まだモデルとしての妥当性が十分でないことが判明した。 また,純粋持株会社形態を採用してもグループ経営としての権限・責任の明確化や迅速な意思決定の実施といった側面を生かせない意図せざる結果に関して、対応の仕方があり得ることが事の多面的分析を通じて確認された。 本年度は、純粋持株会社に移行するプロセスにおいて,操作概念としての「自律性」と「規律性」の関係性について、媒介変数ないし調整変数がが必要かを考察しながら、両概念を基軸に純粋持株会社化への生成プロセスを理論的・実証的に解明することを進めたが,意図せざる結果との関係性についてはデータ・情報不足のため論拠不明な状況で、これが残された課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画について、コロナ禍のため昨年同様予定通り進めることができなかった。とりわけ設定したリサーチクエスチョンについて、年度を通してコロナ禍の収束を見ることができず、研究出張伴うインタビューや実態調査を予定通り進めることが不可能だったからである。そしてさらに、海外での研究発表と学会活動を通しての海外研究者との直接交流も予定どおり実施することができなかったことも、研究を停滞させる要因となってしまった。その上、研究を通じて、当初想定した自律性と規律性という概念だけでは不十分であり,さらに別の概念が求められるようになったからである。 とはいえ,以下の点で基本的な研究計画は変化していない。これまでに蓄積した純粋持株会社と事業子会社の事例分析を通じて,その構造を明らかにすることがある程度できたからである。具体的には,上場企業の純粋持株会社に焦点をあて,グループ経営としての類型の精査が進んだのである。そして,純粋持株会社への移行プロセスの事例研究では,グループ経営として本社集権型から分権型まで,そのパターン化が業種によって異なる傾向がより明確に提示されれた。 純粋持株会社への移行は,企業の組織変革の成功経験や組織文化,パーパス経営の定着度合いによっても影響されることが否定できない。さらに,純粋持株会社と事業子会社の関係についてネットワーク分析や制度分析の可能性など,純粋持株会社への移行に影響する要因分析が多様であることが確認されるに至った。 以上から,有効な純粋持株会社のあり方はパターン分析とプロセス分析の総合によって解明することが可能であり、効力が高まる純粋持株会社に移行するプロセスの解明が進んだといえる。コロナ禍により計画が遅れてしまったとはいえ、有効な純粋持株会社の内容について研究を進めることができたのである。
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今後の研究の推進方策 |
本来なら十分な研究成果を出すはずだったが、コロナ禍のため本テーマの研究をさらに延長せざるを得なくなった。そのため最終年度は,研究が停滞した有効なグループ経営の要因を軸に、純粋持株会社におけるネットワーク強度の影響要因をも考察対象に取り入れるため,ネットワーク分析の知見を活用する。そして,親会社と子会社間、子会社間のネットワーク関係についてDX(デジタル変革)の視点を組み入れて分析し,純粋持株会社の有効性を高める新たな理論的枠組みの構築とその論拠を明らかにしていく。 情報ネットワーク化の進展は,DXの影響が大きくなり、グループ経営の観点からDX発展のトレンドを適用することが求められている。これが意味するところは、必要情報の入手の自由が増大するとともに,ネットワークの外部性を生かせるかどうかである。ただしその場合、必要情報が入手されるほど,選択の自由が制約されるというパラドックス状況に直面することが避けられない。そうした問題を避けるには,情報のインテリジェンス化が必要であろう。この点に関して,ホールディングカンパニーからグループ会社に会社名を変えるなど、本研究に関する新しい現象が生起している。これを素材に、理論枠組みの予測可能性を高めるため,欧米アジア圏における持株会社の事例検討を進め,海外の研究者と研究交流を図りながら研究の深化を図る予定である。 研究期間が延びたが、当初の予定通り,定量・定性分析を通じて、純粋持株会社に共通する因子を探りながら、事業子会社コントロールの有効性の度合いと持株会社のパターン化の関連を明らかにしていく。とりわけ,時間軸を考慮に入れた分析を行い,静態的な分析とは異なる何らかの発見に結びつけたい。そして,新しい理論モデル構築とその一般化の可能性を探るために,アフター・コロナを見据えた海外子会社の自律性と規律性の事例についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため国内外の研究出張が不可能だったため、研究費が残ってしまった。 次年度は8月31日から9月2日のBritish Acdemy of Management(英国マンチェスターで開催)年次大会での研究報告が採択されているため、海外旅費とし使用の予定。
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