最終年度に当たる2021年度は、本研究の目的である開発タイプごとに有効なマネジメントの中身の解明に取り組んだ。 まず、特定の個人や部署に提案を義務付け、発案させる分業型では、担当者の人選について様々な工夫がなされていた。例えば、デザイン・コンペを実施して候補者を選別する、デザイン部門内に適任者を選抜するための人事評価の仕組みがある(あるいは、インフォーマルな形で日常業務や日常会話の中で適任者に目をつけるようにしている)、本人のやる気を重視して先行開発部門への立候補制を採用している、などである。このように人選が大事な理由は、デザイン先行型開発は、極めて属人的な仕事になる場合が多いからである。そのため、仕事を割り当ててから育成するのではなく、それ以前に有望株を「発掘」しておき、その人を「割り当」てるマネジメントが必要になるのである。 一方、先行開発の責任者以外の個人やチームによる提案を促す自主提案型では、デザイナーが主体的にアイデアを生み出したり提案したりできるよう、ヒト・モノ・カネのスラック(余剰)を生み出すための様々な工夫が施されていた。具体的な余剰人員作りのための取り組みの一つとして、歴代のデザイン部門管理職によるデザイナーを一カ所に集めるための努力や組織規模拡大に向けた努力などが挙げられる。もともと人数の少ないデザイナーが事業部門ごとに管理されてしまうと、各現場では極めて少ない人数でデザインの開発業務に当たらなければならず、デザイナーの消耗が激しくなるからである。さらに、余剰資金捻出に対する様々な工夫も見られた。しかし、中には、せっかく生み出した余剰時間をその作業によって奪われる悪循環も見られた。例えば、デザイン部門予算のカット→デザイン先行型開発のための資金不足→派遣社員数を絞ることによる資金の捻出→本社社員が派遣社員分の仕事まで請け負う→余剰時間の減少などである。
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