研究実績の概要 |
本研究は、伝統工芸の振興策について、近年、デザインマネジメント研究分野で注目される「デザイン・ドリブン・イノベーション」(Verganti, 2009; 佐藤ほか訳, 2012)の戦略的視点から分析を行うものである。デザイン・ドリブン・イノベーションとは、製品に新しい意味を与えることによって生じるイノベーションを指し、純粋な技術革新や市場の緻密な調査によるイノベーションとは異なる概念である。Verganti(2009)は、さまざまなデザイン行為を検討することで、その定義を「モノの意味を与えること」とした。製品のイノベーションにおいては、製品の情緒・象徴的側面である意味を革新することが重要であり、その鍵がデザインにあることが指摘され、この製品の意味の革新プロセスが「デザイン・ドリブン・イノベーション」として提起された。本研究では、代表研究者(佐藤)が、長年にわたって実践してきた京都市や滋賀県でのデザインによる伝統工芸振興事例を中心に、全国の同様の工芸品振興事例なども対象としながら、デザイン・ドリブン・イノベーションの観点から、その有効性や課題等について分析・考察を行った。伝統工芸関係者へのインタビューを続けたところ、その課題は伝統産業内にあるのではなく、また伝統産業と現代産業・社会との接続のみにあるものでもなく、私たちの認識下にある業・社会像を超えた、伝統産業と現代産業・社会を含めた社会全体が目指すべき新たなビジョンを構築することが重要であることがわかった。そこで、本年度は研究成果を広く社会に発信するために、伝統工芸分野における研究成果を踏まえ、デザインマネジメント研究全体の課題を捉え直し体系的に整理した書籍『デザインマネジメント論のビジョン」にまとめ刊行した。
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