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2021 年度 実施状況報告書

ICT化に伴う産業概念の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 18K01788
研究機関中央大学

研究代表者

生稲 史彦  中央大学, 戦略経営研究科, 教授 (10377046)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2023-03-31
キーワードイノベーション / 情報通信技術 / 産業 / オーラル・ヒストリー / ミクロ・マクロ・ループ / ルーティン / ビジネスモデル / 産業アイデンティティー
研究実績の概要

本研究は、産業の社会的構成という立場で、多くの人が認める産業の枠組がいかに作られ、変容するのかを実証的に明らかにしようとしてきた。2020年度までの研究で、ミクロ・マクロ・ループを内包するメカニズムを見出した。2021年度は、このメカニズムを検証しつつ、産業を特徴付ける3つの要素―ルーティン、ビジネスモデルもしくは競争戦略、産業アイデンティティー―が、いかなる先行要因によって影響を受けるのかを明らかにしようとした。
2021年度の研究では、1980年代以降のゲーム・ビジネスの事例を主たる対象とし、研究成果をまとめた。社会全体および複数の企業レベルでのマクロの変動と、企業とその内部で生じるミクロな変動、そして両者の相互作用と産業概念の関係を見て取ることができた。その研究成果は、開発活動に焦点を当てミクロレベルでのルーティンの安定性を明らかにしたAnnals of Business Administrative Scienceの論文、ビジネスモデルや産業アイデンティティーといったよりマクロな現象に取り組んだZMR研究会での発表である。さらに、ミクロとマクロの相互作用を読み解き、「ゲーム産業」が成立し、発展した過程をSpringerの書籍として取りまとめた。
こうした研究によって、産業が社会的に構築される過程で働く、2つの先行要因を見出すことができた。そこで、2つの先行要因に焦点を当て、他産業の事例を対象とする実証研究に着手した。先行要因の一つに関しては、データ利活用を着目した研究成果を『研究 技術 計画』と『日本知財学会誌』で発表した。また、産業を特徴付ける要素については『組織科学』掲載の論文、帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター (TDB-CAREE)の発表とディスカッション・ペーパーなどで発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2020年度までの研究で、製品もしくはサービスという成果物の類似性や関連性だけを頼りにして産業を認定することを批判的に検討してきた。研究の結果、人々の認識や行為に遡ることで産業概念を見直す可能性を見出した。2021年度は、人々の認識や意図、行為を反映して産業を特徴付ける3つの要素―ルーティン、ビジネスモデル、産業アイデンティティー―の形成と変容に影響を及ぼす先行要因の探索を進めた。
実証研究の結果、産業の社会的構成の先行要因として2つのタイプの事象を想定できると考えるに至った。その一つは当該産業の中核的な製品サービスや企業家である。これは、産業アイデンティティーを一定の枠内に留めるアンカーと呼べる。成功を収めたモノやヒトは、典型的なルーティンやビジネスモデルを具体的に示し、その成功自体が新規参入を促し、産業が自己成就的に確立していく。
もう一つは、複数の産業を跨いで使われる技術や行為のパターン、複数の産業を架橋する人材である。これは、貫通帯とも呼べる事象である。アンカーを手掛かりに新たに参入した人々は先行者をそのまま模倣するわけではないので、意図や行為が小さな差異を含む。この差異が産業アイデンティティーの多面性をもたらすと共に、他の産業との繋がりを現実化させる。産業横断的な取り組みは、ルーティンの横展開や、知的財産およびデータの再活用、ビジネスモデルの遂行といった形で現れ、産業の典型的な成功の型、製品サービスの形が揺らぐ。結果として、産業の境界が曖昧になり、次なる産業の萌芽が育まれる。
以上のように、産業はアンカーと貫通帯の2つの現象が機能することで社会的に構築される。すなわち、この2つの要因が発揮する力のバランスで、産業の形成とその変容を説明できるのではないだろうか。2022年度の研究では、現時点で得た仮説を検証し、その妥当性を高めていきたい。

今後の研究の推進方策

4年間の研究で産業概念を再検討し、これまで当然と見做されてきた製品もしくはサービスという成果物の類似性や関連性に着目した産業概念を見直すことができた。それに代わり、製品やサービスを作り出す人々の認識や意図、行為が具体化したルーティンやビジネスモデル、さらにはこれらの総体としての産業アイデンティティーへと遡及する可能性と意義を見出せた。くわえて、産業アイデンティティーを支えるアンカーと、その変容のきっかけとなる貫通体という概念を見出し、産業アイデンティティーが変容してゆくメカニズムに関する仮説を得ることができた。2022年度の研究では、これらの概念や仮説の妥当性を検証することが、最も優先されるべき研究課題である。
さらに、これらの概念や仮説を踏まえて、実践的な提言も探っていきたい。とくに、産業概念の再検討で可能になった、新しい産業分析の概念や指標、分析枠組の提案を目指したい。また、産業という枠組の見直しを踏まえると、産業を単位とした政策、すなわち産業政策の範囲と手法を見直す必要性も生じる。本研究の実証研究で明らかになった産業形成のメカニズム、現在生じつつある産業の変容を踏まえて、今後の政策はいかなるアプローチで産業に介入すべきなのかも検討し、提言したい。
以上の実証研究の成果と、実践的な提言を取りまとめ、国内外の学会での発表、書籍や論文の出版で広く世に問う予定である。すでに、海外での学会発表や、国内外の学術誌への投稿、書籍の執筆と編集を計画している。研究成果を公表し、その成果に対するフィードバックを得ることを通じて、本研究が進めてきた新しい産業概念の妥当性、応用可能性、経営学を中心とした既存研究との接合を確かなものとし、産業概念の刷新をさらに進めていきたい。

次年度使用額が生じた理由

2021年度も新型コロナウィルスの影響により、海外渡航、国内出張ができなかった。当初は、海外と国内の学会への参加や、国内でのインタビュー調査を予定していたが、それらを断念したために旅費、関連する物品購入費や人件費が多く余ることになった。
2022年度も新型コロナウィルスの影響は続き、海外渡航と国内出張は制限されることを想定している。そのため、オンラインでの学会参加やインタビューでそれらに替えつつ、書籍や論文で研究成果を公表する予定である。そのために、翻訳費、英文校閲費、研究補助を受けるための人件費などを支出する予定である。
さらに、インタビューで得られたであろう一次資料の不足を補うために、二次資料を集めるので、そのための購入費、物品費が必要になると見込んでいる。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] The development productivity dilemma2021

    • 著者名/発表者名
      Ikuine Fumihiko
    • 雑誌名

      Annals of Business Administrative Science

      巻: 20 ページ: 79~92

    • DOI

      10.7880/abas.0210317a

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 開発生産性のディレンマ―日本のゲームソフト・ビジネスの実証研究2021

    • 著者名/発表者名
      生稲史彦
    • 学会等名
      ZMR: Zooming Media Research 研究会
  • [図書] The Efficiency and Creativity of Product Development: Lessons from the Game Software Industry in Japan2022

    • 著者名/発表者名
      Fumihiko Ikuine
    • 総ページ数
      170
    • 出版者
      Springer, Singapore
    • ISBN
      978-981-16-7742-7

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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