本研究は、産業に関わる認識は社会的に構成されると考え、ICT化が進む経済社会において有用な産業概念と、それを前提にした企業行動を検討してきた。ICTが技術として発展し、社会の中で広く使われることで、複数の製品やサービスを結合してビジネスを展開する企業が増える。そうした新しい結合は、従来の産業の境界を超えるがゆえに、産業の境界が曖昧になったり、新しい産業の萌芽が生じたりする。産業の境界が動的に変動する状況の中で、それでもなお、産業が存在すると認められるのはどのような事象なのか。2023年度の研究は、本研究が提案する新しい産業概念の妥当性を確認し、これまでの研究成果を取りまとめた。 まず、本研究で産業の一要素として考えているルーティンについては、安定と変容を同時に理論化し、実証するアプローチとしてルーティン・ダイナミクスの研究に着目し、『赤門マネジメントレビュー (経営学輪講シリーズ)』に論文を掲載した。もう一つの要素であるビジネスモデルについては、日本商業学会で研究発表をしたり、『一橋ビジネスレビュー』にビジネス・ケースを寄稿したりした。さらに、生成AIがもたらす変化を考察し、その中で生じる産業アイデンティティーやビジネスモデルを検討した成果を『情報通信学会誌』に寄稿した。 つぎに、書籍を2冊の編集に携わり、新しい産業概念を踏まえた実証研究の方向性を示そうとした。その一つはゲーム・ビジネスを対象とした実証研究であり、もう一つはデジタルコンテンツ全般に関する実証研究の成果である。いずれもICT化の影響を顕著に受けている点で、新しい産業の有り様を先取りしている研究対象である。他の研究者の研究成果に、この研究で得た知見を重ね合わせることで、産業の調査や分析と、それに基づく戦略提案および政策立案の可能性を示している。これらの書籍は2024年度中に刊行予定である。
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