研究課題/領域番号 |
18K01789
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
吉森 賢 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 名誉教授 (20182834)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 同族大企業 / カリスマ経営者 / 企業統治 / フォルクスワーゲン社 / セブン&アイ・ホールディング社 / マックス・ウエーバー / 所有と経営の分離 / 所有と支配の分離 |
研究実績の概要 |
カリスマ経営者とは企業の将来における経営環境の変化を的確に見通す洞察力を有し、変化に対する戦略を決定し、適時に実行するために社内の経営者、管理者の同意と協力を得るための説得力、抵抗に際しては強固な意思貫徹能力を発揮して切り抜ける天賦の性格、執念、自信の所有者を意味する。今日における激変する世界的経営環境の変動に対応するためにはこの種の人材の必要性は論を待たない。 しかし成功したカリスマ経営者は人間であり、弱点を克服することは困難である。その弱点としては世界的な市場地位を確立した企業の創立者および倒産の危機に陥った企業の再建に成功したカリスマ経営者は国内・国外で称賛を浴びるに従い次第に自己陶酔に陥り、不名誉な退陣に陥る事例が世界的に生じている。 1.論文「同族大企業のカリスマ経営者と企業統治ーフォルクスワーゲン社とセブン&アイ・ホールディング社」2018年9月「横浜経営研究」第39巻第1・2号 1-17ページ。2018年9月15日発行この論文は日本のセブン&アイ社の鈴木敏文会長兼社長とドイツのフォルクスワーゲン社の会長がほぼ同時期に社長を解任する意思を単独で決定した事例により両カリスマ経営者が不本意な退陣に追い込まれた原因を明らかにする。2.論文「同族大企業におけるカリスマ経営者と企業統治ーVW社とポルシェ社」「ファミリービジネス学会誌」第7号 2018年発行3.学会発表「カリスマ経営者と有終の美」ファミリービジネス学会第11回全国大会、慶應義塾大学日吉キャンパス 2018年9月1日
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カリスマについてその定義をウエーバーの著作ににより明確にした。ドイツのカリスマ経営者VW社ピエヒ会長と日本のセブン&アイ鈴木会長が偶然にほぼ同時期に配下の社長を不等解任する事例に基づき長期にわたり権勢を振うカリスマ経営者の欠点を明確にした。これによりカリスマ経営者の陥りやすい失策は日本とドイツの文化的、歴史的違いを超越した要因により生じる事実を明らかにした。両社の状況はカリスマ経営者の存在意義はカリスマ支配はその後に続く合法支配に至るまでの短期的かつ過渡的支配的形態であるとする仮説に達した。しかしウエーバーは合法支配を三種の支配形態の中で最も高く評価するがその欠点は規則の順守による支配であり、この結果企業組織は規則の厳守を目的とする手段と目的の倒置に至ることがアメリカのロバート・マートンにより指摘されている。 このことは企業の永続的繁栄はカリスマ支配、合法支配のみでは不可能であり、他の支配形態が必要とされるこを意味する。 結論として企業の長期的な最適支配形態は同一の支配形態ではなく企業が置かれた競走環境に対応するために最適な支配形態を選択する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
既に日本とドイツにおけるカリスマ経営者の事例による比較研究は上記論文で終了したので、第2年度は他にアメリカ、フランスの事例を調査の対象とする。さらにアメリカも社会学者マートンによる合法支配の理論を研究し、その事例をアメリカ、日本に求め合法支配の限界を明らかにする。 第3年、4年度においては企業の支配形態はカリスマ支配、合法支配はいずれも短期的かつ支配形態であるとする仮説を提示し、その妥当性を日米独仏における事例調査により評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度において加入している日本経営学会の各地方において実績発表の機会があり、またドイツ、フランスへの調査出張の可能性があるので当該年度予算の全額使用をやめて本年度に使用することにした。
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