研究課題/領域番号 |
18K01789
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
吉森 賢 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 名誉教授 (20182834)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | カリスマ支配 / 合法支配 / 伝統支配 / ピエヒカリスマ会長 / 鈴木カリスマ会長 / ロバート・マートン / マックス・ウエーバー |
研究実績の概要 |
マックス・ウエーバーは支配形態を合法支配、伝統支配、カリスマ支配により定義している。彼は合法支配の正当性を「技術的に最も純粋な法的支配」と評価し、合理的形式的法令・規則と専門的客観的能力を有する官僚による個人的動機、服従者の地位とは無関係に客観的適用をその特色と定義した。VWと7&iに生じたカリスマ会長による社長解任又は社長職再任拒否の事件は類似性の高い出来事であるが、事件落着までの時間はVWが15日、7&iが50日であった。これはVWにおいて少人数の委員会で合法支配的に決定されたことによる。 しかし合法支配は万能ではない。アメリカの社会学者ロバート・マートンは、分権制による意思決定、職位・権限の成文化、会議・規則制度、組織的・集団的合法支配の弱点は手段と目的が倒置するリスクにあり、これを「規則の逆機能」と表現し、その弊害を形式・慣習の重視、個人の創意と組織への貢献意欲の減退にあるとし、この結果企業業績が低下すると主張する。この種の企業文化的問題の解決にはカリスマ的経営者が必要となる。 上記により企業の支配形態は循環的に変化し合法支配は長期的に企業業績を低下させることが明らかになった。これを解決するためにはカリスマ支配が必要である。企業の支配形態はカリスマ支配、合法支配、業績低下によるカリスマ支配と循環的に変化するが、単独の形態では長期間に企業の収益を保証できず、各形態において重要な貢献を為し得る人材を確保、教育する必要性がある。いずれかの形態が永続することは困難で、常に支配形態の有効性を観測し、必要に応じていずれかの形態へ移行する準備が企業に要求される。したがってカリスマ経営者により危機的状況の脱却に成功した企業はカリスマ経営者による自己中心的な行動が始まる前に合法支配へ移行する必要があり、いかなる支配形態下にあっても必要な場合は新しい形態へに移行する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最高経営責任者カリスマ支配の弊害が進むと改革派の中間管理者または外部取締役がカリスマ経営者を退任させ、業務・責任の分割による合法体制が導入される。これにより最高経営責任者とその配下の管理者は明確化された目標達成のために協力する。 達成目標と責任権限が明文化され合法支配が成立する。しかし時間が経過すると形式、儀礼が重視され、個人は創意、組織への貢献意欲を喪失する。この結果企業業績の低下が生じる。これをマートンは規則の逆機能Dysfunctionと称する。この結果企業衰退が生じる。この状況から脱却するためにはカリスマ経営者が必要となる。
|
今後の研究の推進方策 |
エリート経営者によるカリスマ行動 2018年11月のカルロス・ゴーン日産会長の逮捕はフランスにおけるカリスマ経営の未知の状況を明らかにした。なぜならゴーン会長はフランスの超エリート大学エコール・ポリテクニクの卒業生だからである。この事件はフランスにおけるエリート大学の卒業生の有するカリスマ性とその強大な権力を明白に示している。エリート大学の卒業生が実社会で強大な権力を有することはフランスに限らない。研究代表者はゴーンの逮捕から間もなくエコール・ポリテクニクについての記事を「技術者高等教育のフランス・ドイツ比較-フランス編」を横浜国立大学経営学部紀要「横浜経営研究第40巻第2号」に発表した。
カリスマ支配・合法支配・企業衰退の繰返しが企業の実相 企業におけるカリスマは、戦略の誤り等によって低収益に陥り管理者と従業員の意欲が低下した状態を、新戦略の実施により高収益を実現した経営者を意味する。カリスマはその栄光と地位に安住する結果、企業にとり望ましくない存在に堕することが少なくない。しかしこの事実はカリスマを否定することを意味しない。むしろ企業の発展のために不可欠な存在である、カリスマは危機的状況から企業を救済する意味で企業にとり不可欠な存在である。しかし企業が再生しこれが長期化すればカリスマでない普通の人材が各々の能力と意欲に従い活動することが必要となる。このためには各人、各管理者が規則と契約に従い集団的・協力的な経営活動へ移行することが必要となる。すなわち規則・契約による合法支配が必要となる。しかし合法支配下における「規則の順守」が強く意識される結果、形式・儀礼が重視され、個人の創意と組織への貢献意欲が喪失される。この結果企業業績の低下、規則の「逆機能」Dysfunction(R.K. Merton)が生じ、これを是正すためにはカリスマの強力な改革意欲と能力が必須である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ウエルナー・ゾンバルト、金森誠也訳「ブルジョワ-近代経済人の精神史」中央公論社(価格5,300円)を購入するために同額を残しておいたが、本屋から届いたのが年度が変わってからであったため。同額は2020年に書籍購入のために使用する予定である。
|