これまで研究代表者は、海外の同族大企業(ドイツとフランス)を中心に研究を進めてきた。特にドイツには多様な法的形態が同族企業により採用されている。その多くは公益財団を有し、これが設置企業の統治に重要な役割を果たすことが分かっている。本研究は、日本の同族大企業に焦点を当てて、カリスマ経営者の貢献と世代交代の実現に関して議論する。カリスマ経営者が国民経済において果たす影響力は日本のソニーと本田技研を見れば明らかである。ドイツにおいてもフォルクスワーゲン社とポルシェ社の発展はカリスマ経営者の貢献なしでは考えられない。 カリスマ経営者の支配する企業の企業統治はこの種の経営者の下記の性格により、一般的な企業統治による規則の機械的適用は困難である。①自己が育てた会社との心情的一体化と社長・会長職への長期的在任の固執 ②分身としての企業の永続化 ③後継者育成と後継者決定の欠落 ④自信過剰による実力以上の経営行動 ⑤独断的意思決定と権限移譲の欠如 ⑥自己拡大による規則無視 また、会社の発展に例外的な貢献をしたカリスマ経営者の会社への愛着と一体化を尊重しつつ、会社における世代交代を実現する手段として、下記が明らかとなった。① 代表取締役社長と取締役会会長の原則的定年の規定と会社との接触維持 ② 社長の選任、再任、解任の条件の事前的明確化 ③ 人事の機関決定 ④ 信頼できる相談相手の確保 ⑤ 社外取締役とカリスマ経営者 ⑥ 現場管理者、従業員との部門別研修会による問題解決の検討 ⑦ 従業員満足度調査 ただし、企業の支配形態はカリスマ支配、合法支配、業績低下によるカリスマ支配と循環的に変化するが、単独の形態では長期間に企業の収益を保証できず、各形態において重要な貢献を為し得る人材を確保、教育する必要性があると考えられる。
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