研究課題/領域番号 |
18K01791
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
西尾 圭一郎 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (20453368)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 邦銀の海外展開 / インド金融システム / 現地化 / 金融機関経営 |
研究実績の概要 |
昨年度は主に2点の成果がある。一つは昨年度から取り掛かり始めた、銀行を取り巻く競争環境の変化の一環であるフィンテックについての調査の継続である。これは途中経過を研究会・学会報告等で対外発信しつつ、継続していた。その中ではインドを含め、銀行がフィンテックと関わっていく状況について、少しずつその関わり方が明らかになってきた。インドの銀行はそのフィンテック企業と競合するサービスに関して、一律的な対応をしているのではなく、競合企業の資本力、技術力に合わせて提携、自社開発、買収等様々な戦略を組み合わせている。 もう1点としては、銀行業を含むインドの金融業・金融システム全体の整理を行ったことである。インド全体の産業について総勢34人の研究者、実務家で作成した『図解インド経済大全』(佐藤隆広、上野正樹編、高口康太編集協力)の中で、「銀行」「証券」「生命保険」「損害保険」「フィンテック」「投資信託」といった金融分野についての執筆を行った。その中で特に本研究課題として重要な「銀行」パートでは、インドで問題となっている不良債権比率等を含めた経営指標から、インドの地場銀行と邦銀を含む外資系の銀行とでは、全く経営状況が異なっていることがはっきりとわかった。特に利益率や不良債権比率等では外資系機銀行はインドの問題として喧伝されているような重大な問題は抱えていないことがわかった。 特にインドで問題となっていた銀行部門の不良債権問題に関しては、ガバナンス上問題がある銀行などがそもそも問題のある貸出先に融資していた、などの質的な情報も集められ、インドの銀行部門全体に問題があるわけではなく、したがって中心的な研究対象である邦銀を含めた外資系銀行の経営とは切り離して考えられることなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では2度の海外調査を行うことで、インドにおける邦銀の経営環境に関する質的調査を行い、データや公開情報だけでは把握しきれない諸関係や特殊要因について理解することを研究の大きな特徴の一つとしていた。しかし日本をはじめ世界全体でコロナウイルス感染症拡大が収まらず、インドにおいても状況は厳しく、海外調査を行える状況ではなかった。 また、昨年度は上半期はコロナウイルス感染症拡大状況の中での大学教育そのものの混乱、下半期もまた緊急事態宣言等を受けそれらへの対応が求められるなど、研究以外の業務が非常に活動リソースを必要とした。 研究としては、海外調査ができないため違う角度から調査を行っていたものの、フィンテックの興隆やコロナウイルス感染症拡大への対応下での景気悪化など、現状金融システムを含めた状況はつかみにくかった。 そのため調査範囲や調査の切り口の見直し等、全体的な修正作業を行い仕切り直しをしながら調査している段階であるため、予想よりもやや遅れた状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果(外資系銀行と地場銀行の違い、フィンテックと銀行業の関係性)を踏まえて、邦銀の現状についての調査を行っていく必要があるが、コロナウイルス感染症拡大という特殊状況、調査ができないという状況から、当初予定していた研究計画をそのまま遂行することは難しいため、違うアプローチの模索を行う必要がある。 研究開始時に予定していたヒアリング調査による質的情報とバランスシート情報の総合分析については出来る範囲で行うものの、それ以外の情報の整理も行っていこうと考えている。候補としてはECBのデータやZauba、Toflarなどの企業情報の購入が考えらえる。特に企業情報の購入は、邦銀に制限せず、競合するインドの指定商業銀行のものを購入することで、インドの銀行業がどのような状況にあるのか、金融コングロマリットはどういった形で形成されているのかがわかり、邦銀の競争環境について知ることができると考えられる。 2021年度においてもインド調査は無理だと考えているため、違う形で邦銀の現地戦略のあり方や、それを規定する競争環境の調査研究を行い、今後の研究につながる形の成果を出していこうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来はインドにヒアリング調査に行く計画であったがコロナウイルス感染症の拡大により実施できなくなった。2021年度も、おそらく実施は難しいと考えている。代替案として、民間所業者による有料の企業の金融・財務情報を購入し、その情報を活用することでインド準備銀行のデータからでは得られない情報などを補完し、インドにおける邦銀を取り巻く経営環境とその活動実態とを明らかにしていく。
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