研究課題/領域番号 |
18K01795
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
藤井 大児 岡山大学, ヘルスシステム統合科学学域, 教授 (50346409)
|
研究分担者 |
細川 宏 (金治宏) 中京学院大学, 経営学部, 准教授 (20758651)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 公共部門の自己革新 / 富山型デイサービス / しまなみ海道 / 島根県隠岐郡海士町 |
研究実績の概要 |
公共部門の自己革新の事例として、富山型デイサービスの研究報告を準備し、新年度開催予定の日本経営学会関西部会にて発表に備えた。しまなみ海道における観光資源開発のフィールド調査を行った。また島根県隠岐郡海士町の学校カリキュラムの改革について、岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科紀要『統合科学』にビジネスケースとしてまとめて掲載した。 共通の教訓として得られたものは以下の通りである。多数のステークホルダーが関与する公的セクターにおいて、立場によって違う意見があるのは当たり前である。したがって利害調整が面倒なものとなって、現状維持を志向する傾向が生じる。しかし現状維持していても何も良いことはないので、緩やかな衰退を辿る地方自治体の例は、枚挙にいとまがない。上述の事例はリーダーが本腰を入れたものと言えるけれども、しかし彼らのイニシアチブだけでも実現しないとも言える。シティズンシップの確立無くして、市民は「笛吹けど踊らず」となるからである。 この時、草の根活動としての「よそ者・若者・痴れ者」の効果が語られることがある。それがしばしばリーダーとしての首長や自治体職員として活躍する場合も散見される。しかしながら先述の通りシティズンシップの確立こそが本質的に重要なのであって、「よそ者」の効用論は、説明として部分的なものと言える(『月刊事業構想』2016年10月)。 かつて岩沼市社協でのインタビューで聞いた「私たちは、これからもずっとここで見守っていかなければならないんです」の一言の重みを胸に、地方自治体の使命感の強さと共に、リーダーシップやその「よそ者」の効用、シティズンシップの高揚を統合的に包摂するフレームワークの開発を目指しているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
富山型デイサービスの研究報告については、4月9日に開催した日本経営学会関西部会にて発表した。フロアから有意義なコメントを頂戴したので、今年度中の日本経営学会全国大会での報告に備える予定でいる。特に地方自治体の使命感の強さと共に、リーダーのイニシアチブや「よそ者」の効用論、シティズンシップの高揚を統合的に包摂するフレームワークの開発を目指しているところである。現在想定しているひとつの落とし所は、基礎自治体とNPOの間、ないしは上位の基礎自治体(国・県)と下位のそれ(県・市町村)の間の協働的な試行錯誤の場のあり方について定式化し、論文にまとめることを検討中である。 もう一点重要な作業として、申請時点で提案していた少数者による多数者への説得戦略に関する社会心理学的調査研究の計画を前進させることである。もとより実証研究まで進める予定であったが、大幅に予定が遅れている。今年度に包括的なサーベイ論文までできればと構想している。社会心理学の実験的手法に不慣れであることから、類似の論文の構成を目下勉強中である。
|
今後の研究の推進方策 |
行政組織と外部環境の関係について、既存研究を次のように整理した。①外部リソースを活用する行政組織、②外部リソースに働きかける行政職員の姿、③先行研究を補う視点として、社会問題の解決には長期的な働きかけが求められることから、より動的なプロセスを視野に入れる必要性である。我々は特に、行政職員が外部にリソースを育てあげることで世論を形成し、それを取り込んで組織を革新していくというロジックに注目したいと考えている。そこで協働的な試行錯誤の場としての小規模組織(NPOや小規模自治体)を措定し、リソースや正当性を上位組織が提供し、小規模組織がその機動性や現場知識を活かした試行錯誤、ネットワーキング、世論形成を試み、そこで育った世論を上位組織が自己革新するテコに用いるというロジックを立てている。 また実験社会心理学の論文について、特に「自己呈示」の一連の研究(沼崎・工藤(2003)ほか)によれば、当初我々が構想していたシナリオ法(仮設的状況を被験者に知らせて反応を観察するもの)の効果と限界について詳しく検討していることから、適切な実験手続きの設計についてもサーベイ論文に盛り込めるのではないかと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
フィールド調査については、コロナの自粛期間が解けた一時期のみ行うことができた。また運営費公金によるオンライン講義用の設備投資が多く、研究経費の負担は減少した。今年度から通常に近い形で調査研究が行えるようになると考えている。
|