研究課題/領域番号 |
18K01795
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
藤井 大児 岡山大学, ヘルスシステム統合科学学域, 教授 (50346409)
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研究分担者 |
細川 宏 (金治宏) 京都光華女子大学, キャリア形成学部, 准教授 (20758651)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地方公共団体 / シビック・アントレプレナー / エフェクチュエーション |
研究実績の概要 |
地方公共団体が公共サービスを展開する際に,しばしば革新プロセスを経験する.ここで言う革新プロセスとは,直面する外部環境からの変革ニーズとそれへの応答プロセスである.しかもそのプロセスは,一回限りのものではなく,行政組織と外部環境との双方向的なフィードバック・ループを経るものだと考えられる.この研究の目的は,この一連の革新プロセスについて,一定の視座を試論的に示すことであった.行政組織と外部アクター間の循環メカニズムという理論化の方向性を詳しく検討するために,社会科学のかなり広い文脈で開発された異なるタイプの既存の文献を適用した. 第一に筆者の1人はかつて技術的イノベーションのメカニズムを研究してきたが,その分野では今日アクター・ネットワーク理論(Actor Network Theory, ANT)と呼ばれる諸研究に連なっている.ANTとそれまでの考え方との隔たりは,かつての(文化)相対主義と一定の距離を取った点,およびそのプラグマティックな姿勢であり,本稿の文脈でも有用性が高い. 第二に,起業家行動研究によると,私たちが今できることで未来を実現(エフェクチュエート)するという見方は,社会革新をめぐる新しい言説を作成するためにも魅力的である.少なくとも,「よそ者・若者・痴れ者」に社会革新のきっかけを期待するような,どこからともなく突然発生するものという認識からは一線を画すものである. 第三に,本稿は積極的にポストモダン思想に寄り添うが,特に混雑した言説が相互作用する社会的現実をポリフォニーと見るならば,社会における少数者の意見にどう向き合うかについて一定の姿勢を示さねばならないと考えられる.その際,シビック・アントレプレナーの役割は決して小さくはないと論じる.彼らは少数派の意見に協力し,それらをより広い対話の文脈に持ち込むことができるからである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本経営学会関西部会にて研究報告を行い、フィードバックを得た。そこでのコメントを反映させながら、学内の紀要掲載を目指したが、学際性を特色とするものだったため、かえって査読者の理解を得ることがより困難だったため、時間切れとなった。年度が変わってからも京都大学で開催されたAcademy of Management主催Round Tableに参加したり、岡山大学の交流協定校との研究交流会議、また秋季開催の日本経営学会にて研究報告をするなどの予定を立てており、今後研究フォーカスを絞り込んで成果に漕ぎ着けていきたい。問題として自覚しているところでは、文献レビューと新たな理論的貢献のところが散漫であり、読者にストレートに伝わる工夫を凝らすべきだと考えているが、やや野心的なことを目指している点とのバランスが難しいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
ややもすれば漠然としがちなコンセプトを鍵概念としているため、既存理論のうちどこに基礎を置くかで長期にわたって文献渉猟していたことが遅れの主たる原因だったと自覚しているけれども、Leadbeater and Goss(1998)の問題意識に立ち戻ることが先決であることを自覚したと同時に、公的セクターにおけるアントレプレナーのあり方を問う上で、エフェクチュエーションという一般起業家を対象とした議論を敷衍することという理論的方向性を明確に謳うことで、ある程度議論の整理ができるのではないかと考えているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会等での成果発表に用いる予定である。
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