研究課題/領域番号 |
18K01799
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
宇都宮 譲 長崎大学, 経済学部, 准教授 (60404315)
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研究分担者 |
福澤 勝彦 長崎大学, 経済学部, 教授 (00208935)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人的資源 / 衛星画像 / 状態空間モデル |
研究実績の概要 |
近年、官庁統計について非標本誤差が混在する事態がわが国において発生した。われわれが用いるタイ官庁統計についても、誤差が混入している可能性がある。混入している誤差をなんらかの客観的なデータを用いて補正できるならば、誤差が混在するかもしれないデータを研究において利用することに資するという着想を得た。これにしたがい、今年度は衛星画像を利用して労働力多寡検出が可能かどうか検討した。すなわち、衛星画像から色成分(赤・緑・青)を抽出、抽出した色成分から労働力分類(多い・中程度・少ない)を推定した。昼間に就業する人々が過半と考えられることから、夜間光量を用いた推定は不適である。対象はタイおよびベトナム、対象時期は2018年。各国におけるGDPを夜間光量から推定する既往研究を参考にした。分析には、多項分布を用いたロジスティック回帰分析を適用した。 結果、緑色成分が労働力分類を推定するには重要であることが明らかになった。労働力勢力が増加するにつれ、山林や海浜が開発され住宅や工場となったことが原因と考えられる。工業化による開発過程と人的資源量分類に関連が存在することが示唆される。赤色成分や青色成分は労働力分類を弁別することにおいて貢献しなかった。 以上、衛星画像を用いて、労働力統計を補正しながら人的資源量分類を推定することは可能であろうという結論を得た。衛星画像はきわめて客観的でありかつ誰もが利用可能である。労働力統計とカラー画像を組み合わせることは新規性も高い。本研究が用いたモデルはよく特性が知られており、また計算量も他手法に比べて比較的小さい。さまざまな応用が可能である。ただし、緑色成分は自然環境が季節変化することに左右されやすい。タイのように年間を通じて比較的植生が示す色が安定する国においてはよい結果が得られたが、わが国のように季節によって色が変化する国においては注意が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は衛星画像を用いる手法を得た。しかしこれを用いるために必要なデータ処理に手間取ってしまった。結果、予定した個票データ入手に必要な手続きを進められなかった。衛星画像から抽出したデータを分析することには、上記したようにさほど手間がかからない。しかし、衛星画像から意味ある分析を実行するために必要な程度に大きな標本を得るには、相応に手間がかかる。この抽出作業を高速化するために必要な技術的要件を検討することに、予想外に時間がかかった。 新型コロナウイルス(COVID-19)流行によるタイ渡航制限がこれに輪をかけた。すなわち、2020年2月頃から東南アジア方面へ渡航することにかなり強い制約が発生した。また海外大学に在籍する研究者が疫病対策に忙殺されたことから、タイ当局や海外大学との折衝が事実上困難になった。衛星画像を用いる研究にはつきものである現地確認(現地に衛星画像から読み取れる文物が実在するかどうか確認する作業)も進められない。外国人による立ち入りを現地が憂慮するからである。こうした傾向は、2020年度も続いている。幸い、タイにおいて疫病対策が次第に奏功しはじめており、上記制限は次第に緩和されると考えられる。 以上を鑑みるに、やむを得ない仕儀ながら、研究はやや遅れているという結論を得た。
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今後の研究の推進方策 |
第一、個票データ入手手続きをすすめる。個票データは10期分のみ一度に入手可能であるが、タイ研究者と協力することで無料入手可能である。貴重なデータであり、是非に入手して分析に供したい。特に、空間的自己相関を加味した人的資源量推定には同データが大変有用である。 とはいえ、現下の状況が解決しないことも考えられる。本研究は県別集計データを用いることも検討中である。タイ統計当局は、都県レベルで集計データを公表する。期間は都県毎にまちまちであるが、10期を超える。都県レベルで空間的自己相関を検討するには十分であるし、個票のように期間制限がない。この場合、都県・年次別に異なる提供データ・フォーマットを克服する必要がある。すなわち、都県・年次毎にcsv形式にて提供されるフォーマットが、縦型になったり横型になったり大きく変わる。集計項目が異なることもある。これら制約を克服しながら利用可能になる程度にクリーニングするには、かなり手間がかかると考えられる。 衛星画像による補正も引き続き実施する。Google Earth Engineを用いて、衛星画像を入手可能である。各年次・地区における衛星画像が手軽に利用可能である。 以上を用いて、人的資源量推定を実施する。特に、空間的自己相関を加味した労働移動や変換点検知手法を用いた疫病が人的資源量に与えた影響について検討したい。成果発表については、予定通りである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行および衛星画像データ処理に時間を要し、結果として2019年度に実施予定であった研究を実施できなかったため。 本年度計画は以下に示す通り。なお、下記はCOVID-19禍が終息しタイ王国へ渡航できる条件が整備されることを前提とする。 第一個票ないし集計データを用いた人的資源移動に関する分析:これまでの分析によれば、人的資源分布には地理的な偏在が確認される。労働移動に由来する偏在が推測されることから、移動に関する状態と移動をもたらす機序を確認したい。データは個票ないし県別に集計された労働力調査データを用いる。利用可能な期間を鑑みれば、後者がよりふさわしいであろう。手法は従来用いた状態空間モデルを応用する。第二、衛星写真を用いた解析対象実地検認:2019年度に実施した衛星写真を用いた分析対象の一部について、対象地に所在する物体を現認したい。衛星写真から推測される地上にある物体が推測通りであるかは、現認が必要である。特に工場建屋は操業中かどうかも含めて現認が必要である。 第三、論文執筆および国際会議発表:2020年にAIBSEAにて発表予定。同学会はオンライン開催が決定済。
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