本研究では、日本を含む国際比較研究のレビューを試みた上で、イギリスのホワイトカラーを対象とした調査(Web調査)を実施した。主な事実発見として以下が指摘できる。 第1に、転職経験者割合については、大企業管理職の転職経験者は日本では少ないが、イギリスでは多かった。第2に、そのことが可能となる背景として、学校で学んだことが今の仕事に役立つという意味での教育の職業的意義(職業的レリバンス)がイギリスでは強かった。第3に、それとあわせて仕事が社会性(他社通用性)を持つために、公的もしくは社会的資格が必要となる度合がイギリスでは強く、日本では弱かった。第4に、組織内キャリアの横についてみると、イギリスは日本よりも職能範囲が狭かった。キャリアの幅を調べると、職能特化型の大企業管理職の割合はイギリスでは日本よりも多かった。第5に、組織内キャリアの縦つまり昇進選抜の時期についてみると、幹部候補生のためのキャリアルートの割合はイギリスで多く(日本で少なく)、大企業管理職の昇進の時期は日本よりも早かった。 以上の解釈として以下が指摘できるだろう。イギリスの管理職は、教育の職業的レリバンスが強く、学校での教育内容と今の仕事に関連性がある(日本は関連性が弱い)。また仕事に資格要件が求められる割合も多い(公的・社会的資格の必要な理由として「今の仕事に不可欠の条件だから」が多い)。このことは組織外部での職業教育訓練や学習が組織内部での職務遂行のための知識やスキルとの関連性が強いことを意味する。それはまた職能特化型の管理職が多いこととも整合性をもつ。さらに職能特化性と他社通用性を持つ管理職の仕事と能力は移動性向を強めることと整合的である。加えて、多くみられる幹部候補生のためのキャリアトラックの普及は、早期の昇進格差を伴い、それによる転職志向性を強めるように作用している可能性がある。
|