本研究の最終年度の成果として、書籍『社会的企業者ーCSIの推進プロセスにおける正統性』を出版した。ここでは社会的企業者をシュムペーター的視点で、独自の価値や動機をもつ希有な存在としてみなし、まったく伝統も係累も持たず、あらゆる束縛を打破する真の原動力であり、CSI(コーポレート・ソーシャル・イノベーション)の担い手として捉えることを試みた。一方で、シュムペーターは経済発展を持続させる資本主義制度そのものの説明に終始しており、社会やさまざまな諸制度は所与のものとしていたという点では、本研究の社会的企業者の動機や意図とは異なるものであったと指摘できる。本研究で導出した社会的企業者の特質は、革新的な活動を通して「能動的に既存の社会的関係や価値体系をつくりかえていく」ものであり、またシュムペーター的な「企業者利潤」の獲得を第一に目指す姿ではなく、ステイクホルダーのウェルビーイングをもたらす「他者的な利益」や「社会的な利益」であったと指摘できる。また、事例検討の結果、社会的企業者はシュムペーター的発想で「既存の制度的秩序への侵入者」としてみなすだけでなく、「既存の制度的秩序からの創造的な逸脱者」としてみなすことも必要であり、この際に社会的企業者はチームやグループとして機能している可能性が示唆された。また、本研究の事例から、社会的企業者によるCSI推進の論理においては、従来のイノベーション研究において重視されてきた経済合理性にもとづく「実践的正統性」のみならず、多様な評価軸にもとづく「規範的正統性」や「認知的正統性」を巧みに創造し、それらを各フェーズにおいて効果的に活用していくことの重要性が示唆された。
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