本研究は,正社員・非正社員という2区分の枠組みを超えた多様な雇用形態間の雇用の組み合わせや人事管理を検討するものである。とくに,人事管理を享受する側である非正社員が雇用形態間の処遇差をどのように捉えているのかを把握するために,組織における従業員の公正性(以下,組織内公正性(organizational justice))に着目した。 まず,文献研究を通して欧米の組織内公正性に関する先行研究の整理を行った。組織内公正性については,既に多くの研究蓄積があるものの,用いられる組織内公正性の測定尺度や下位概念は多様である。また,日本企業における雇用形態間の組織内公正性を正確に測定するためには,従業員が組織との関係を通じて受け取った資源配分の結果の公正性を示す分配の公正性(distributive justice)について,日本企業の人事管理の実態に則した測定尺度の開発が求められる。 次に、多様な雇用区分の従業員を対象に実施した組織内公正性や人事制度に関する2時点のインターネット調査データを結合させることにより,人事制度・施策と組織内公正性に関するデータベースを構築し,実証的な分析を行った。主な発見は,第1に,雇用形態の呼称と雇用契約上の分類基準に齟齬が生じており,多様な雇用形態間の待遇差を検討する際には,雇用形態の分類基準を明確にする必要があること,第2に,組織内公正性と個人の態度・行動尺度との関係性を確認したところ,先行研究で指摘されている関係性は「無期/フルタイム」に限られたものである可能性が示唆されたことである。
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