研究課題/領域番号 |
18K01815
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
荒川 一彦 関東学院大学, 経営学部, 教授 (10434846)
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研究分担者 |
東郷 寛 近畿大学, 経営学部, 准教授 (10469249)
谷口 智彦 近畿大学, 経営学部, 教授 (70581164)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 外国人労働者 / 組織社会化 / エンパワーメント / キャリア / 循環的移民 / 社会包摂 / 産業構造 / グローバル化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、外国人労働者の社会包摂とエンパワメント(自律・活性化)、それを促進する組織構造・人事施策、企業・団体の成長可能性を明らかにすることにある。 本研究第2期(2018-2020)では、外国人労働者の企業現場、特に生産プロセスにおける組織社会化、自律的キャリア形成、促進する人事・教育の方策を検討している。同時に、産官学体制・施策の現状と方策について,送出国と受入国の間を往来する“循環的移民”に注目しつつ、明らかにする。こうした検討を通じて,外国人労働者が自身の置かれた現状に対する認識の変化(「意識化」)(Freire, 1982)を達成し、自律的キャリア形成を遂げる状況と、エンパワメントを通じて、受け入れ側の組織、さらには送出国・受入国の社会・産業が活性化する方途を検討している。 2019年度は、初年度で収集したデータの検討・研究、さらに、地域の非営利団体への拡充、外国人労働者の送出国・受入国における教育実践を通じた知見・研究の深化させた。 具体的には、東郷は、「エンパワメント」概念研究を、理論研究を進展させつつ、地域における非営利組織の経営・人事・組織戦略の検討へと拡大し、複数の視点から実態調査を行い、研究を進展させた。谷口は、派遣・委託会社との継続的関係を活用し、前年度までの日系ブラジル人労働者へのアンケート調査をもとに統計分析を行い、その組織適合(キャリアの成功と定着率)に関する量的検討を行った。その内容は、第22回組織行動科学学会大会で報告され、大会優秀論文賞を受賞している。荒川は、「循環的移民」研究に注目し、2020年初に行った在ベトナムの日系企業・機関への現地調査の検討、企業との連携、現地大学との教育交流通じて、(潜在的/顕在的)外国人労働者の研究を進展させている。こうした成果は2回の研究会で共有され、一部は中間報告として学会で報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、理論研究・現地調査を進行、特に前年度までの企業インタビュー、アンケート調査により収集した基礎データの分析を行った。また、教育実践を通じて(潜在的)外国人労働者の実態を一部把握した。 具体的には、1)国内調査・研究では、地域における検討対象を、地場産業・派遣会社から、非営利法人・組織へと拡大し、その組織運営を検討した。また、大阪に拠点を置く派遣・委託企業の日系ブラジル人被雇用者を対象としたアンケート調査(2018年度までに実施済)を統計分析し、組織適応を検討し、学会に報告した。第22回組織行動科学学会大会で報告され、大会優秀論文賞を受賞している。 2)海外調査では、「循環的移民」に関して、2019年初(前年度)に行ったインタビュー結果の整理・検討を行った(在ベトナム日系10企業の現地法人・機関、教育機関)。日系企業によるローカルスタッフの勤勉さへの評価は高く、自社も積極的に現地化して、教育施策も充実させている。その内容は、第17回人材育成学会大会へ事例報告として提出した。2020年度欧州組織学会(EGOS)での発表が査読通過(発表許可)している(EGOS第36回EGOS大会、2020年7月、独ハンブルク予定)。 3)2019年度は、特にベトナムとの教育交流・実践を通じて、潜在的外国人労働者・循環的移民の実際を知見する機会をもった。特にベトナム大学のとの交換講座、大学院留学生指導を通じて、送出国の国民性・国民文化、発展段階、教育制度の相違、グローバルなビジネス及び教育実践の現状を見ることができた。 いずれも計画通り初年度のデータの分析・検討を進行し、最終年度の報告へと進行中である。しかし、メンバー連携は不十分であり、共通基盤は共有するものの、各自の関心・研究進展に任されている。2019年度国際学会での発表は時期尚早・延期に合意した(2020年度に実施を確保済)。
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今後の研究の推進方策 |
2019年4月の我が国の外国人労働者受入れ政策の転換は、期限・就労条件付きの受け入れでありながら、日本の社会構造に大きな変化をもたらしつつある。既に1992年「入管法」改正により、流入した日系人(ブラジル、ペルーなど)に加え、2010年代に留学生・研修生資格で入国し、実質就労するベトナム人、ネパール人が急増した。国内外国人労働者数において中国人に次ぐ2位、5位を形成している。通信・移動手段の発達、各国民性等を反映して、国境を超えた就労・移動・生活、つまりはライフ・キャリア形成には、21世紀ならではの特性が見られる。アジアにおける我が国企業のグローバル・サプライチェーンの発展に伴い、日本への留学・就労が、帰国を前提とした本国でのキャリア形成の一部となっている。 2019年度以降は、こうした状況に鑑み、本研究・調査の対象を、国内の日系ブラジル人に限定することなく、広くグローバルな視野から日本国内に入国する外国人労働者全般を対象とし、研究地域を特にベトナム、東南アジア諸国に拡大した。その際、日系ブラジル人調査を継続しつつ、「循環的移民」と特徴づけられうるベトナム人をはじめとする他の外国人労働者の動態をも研究の対象としている。さらにこうした移民を形成する産業・企業・教育体制の把握のため、送出国の状況に関する調査・研究をも継続する。 2020年度は、2018年度の蓄積情報、2019年度の整理・分析を基礎とし、研究者メンバー間の連携・共通認識を強化し、収集した情報の分析深化、体系化・理論化に努める。フォローアップ調査による情報アップデートを実施しつつ、国内外学会での研究発表の準備を進めるものとする。
※2020年5月現在、世界規模のコロナ感染症の拡大で国内外の移動が制限されてる。今後の情勢は不透明である。こうした情勢の中での「我が国国内の外国人労働者」の行方を継続的に研究していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、1)発表を予定した国際学会(欧州組織学会EGOS)への参加が、メンバーの2019年1月のベトナム調査出張のため延期された。2)予定された国内フィ―ルドワーク(企業調査:大阪、東海、北陸)が、実施規模を縮小し、大阪に限定された。3)研究代表者がハノイ貿易大学(ベトナム)との大学間連携講座に講師として別予算を活用して出張したのをはじめ、各メンバーが本科研費以外の個人研究テーマ予算で活動できた、ことにある。 2020年度計画として、2019年度計画で未実施の、欧州組織学会(EGOS)での発表に出張する(ShortPaper査読通過済み)。また、国内企業への訪問調査を実施し、現状データのアップデートを行う。そのための国内出張を複数回予定する。さらに、既存データの整理のための機材・人件に出費する可能性がある。
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