研究課題/領域番号 |
18K01816
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
小室 達章 金城学院大学, 国際情報学部, 教授 (00335001)
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研究分担者 |
高浦 康有 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (00340216)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 組織不正 / 個人不正 / 組織事故 / 不正のトライアングル |
研究実績の概要 |
今年度の研究概要は以下の2点である. 第1に、組織不正事例を比較分析することによって、不正のトライアングルの連鎖という組織不正の特質を明らかにしたことである。具体的には、金融機関の不正融資問題と,不動産会社の施工不備問題との比較分析である。この比較分析では、それぞれの組織不正に関する第三者委員会報告書から、組織不正の当事者たちが、組織不正にどのように関与していったのかを記述していくことで、組織において,個人の不正のトラアングルがどのように連鎖していったのかを明らかにした。そして事例を比較分析することによって、不正のトライアングルの連鎖にも、いくつかのパターンが存在することを指摘した。この比較分析は、非営利組織を対象とするものではないが、本研究の分析枠組みである不正のトライアングルを用いたものであり、今後の研究において有用であると考えられる。この研究成果は学会報告として発表した。 第2に、組織事故研究の視点を用いて組織不正の発生メカニズムを考察したことである。組織事故研究では、個人事故と組織事故を明確に区分することによって、個人事故を防ぐための深層防護を掻い潜って組織事故に発展した事故現象に着目する。つまり、個人事故を防止するための仕組みが、組織事故というより大きな事故を生み出すというメカニズムに、研究の焦点を当てているのである。この考え方を組織不正の分析にも適用した。すなわち、組織不正の分析においても、不正防止マネジメントが機能しているがゆえに、個人ではなく組織として不正がおこなわれるという現象に注目するのである。この考え方は、組織における個人不正に焦点を当てる不正のトライアングルという分析枠組みの射程を広げるものであると位置付けることができる。この研究成果も学会報告として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると評価する理由は、以下の2点である。 第1に、個人不正の連鎖という考え方と、個人不正を防止する仕組みが組織不正につながるという考え方を示すことにより、組織現象として組織不正を捉えるという視点を見出したことである。本研究は、不正のトライアングルという理論を用いて非営利組織の不正を分析するものであるが、あくまで組織における個人の不正を捉えることに焦点を当てていた。しかし、現在までの研究において、組織現象として組織不正を捉えるという観点を見出したことは、研究がおおむね順調に進展していると言って良いと考えられる。 第2に、本研究の分析枠組みである不正のトライアングルという理論の射程を明確化できたことである。企業組織と比較して、NPO法人をはじめとした非営利組織における不正は、これまで組織としての不正というよりは,組織における個人の不正と捉えられる場合が多かったと言える。不正のトライアングル理論を用いた不正の分析が、個人不正に焦点を当てているという射程を明確化することができ、そこから組織としての不正にも焦点を当てるという研究の方向性を見出すことができた。新しい研究の方向性を見出せたことも、研究がおおむね順調に進展している根拠となっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様に、組織における不正について多面的に分析をする。不正に関する既存研究を網羅的にサーベイすると同時に、それが現象としてあらわれている事例について、営利組織、非営利組織を問わずに調査する。具体的には、組織不正が行われた事例の第三者委員会報告書の記述内容をサーベイすることと、非営利組織における個人不正の事例分析である。また、非営利組織における不正の要因として、非営利組織を存続させることの困難性にも着目する。特に、事業承継や後継者不足など、組織としての存続を困難にさせる事態に直面した時の非営利組織の動きについても分析を行いたい。これらの研究には、組織不正に関する各種資料の分析と、非営利組織関係者へのヒアリング、また、関連する学会への参加を通じて、必要な情報を収集・分析し、多面的な解釈や、不正が起こるメカニズムの定性的な解明につなげていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に開催予定であった学会・研究会・研究打ち合わせがすべて中止になり、執行予定であった予算を使用しなかったため、未使用分が生じることとなった。未使用分は、次年度において、関連学会・研究会・研究打ち合わせ等の旅費に使用する予定である。出張等ができない状況が続けば、事例分析用の資料や文献の購入、オンライン会議用の機材の購入に当てる。
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