研究実績の概要 |
企業による不祥事・大惨事が繰り返されている。不祥事・事故が起こるたびに, 企業の社会的責任論および企業倫理・組織論・安全学等で個別に分析・研究がなされてきた。しかしながら, 実務においては, その知識が学習されないのはなぜかという「問い」にもとづき,本研究を始めた。本研究では, 企業不祥事・惨事を繰り返さないために, 「過去の実践」から現在・将来への実践への学習理論の発展を目指し, 越文化的学習 (transcultural learning) を促進するための方法論を構築することを目指す。 本年度は,越文化的アプローチをとり,不祥事の中でも,東南アジアでの不祥事に焦点をあて,考察した。現象学に基づく方法論を取り,不正行為に及んだ当時者たちが共有する「生活世界」,「生の体験」を分析した。その結果,不正行為に及んだ当時者達が,不正行為を便法として組織文化に定着させるメカニズムが明らかになった。また,不正行為を組織・業界の常識として浸透させるメカニズムも明らかになった。日本企業社会で不祥事を誘発する集合近眼(collective myopia)という筆者の提唱する病理構造が東南アジアでも存在し,通文化理論として説明的妥当性を得ることができた。 本研究全体の成果として,企業不祥事・惨事を繰り返さないために, 「過去の実践」から現在・将来への実践への学習理論を発展させ,提唱した。従来の経営学研究では,学習理論の発展として「組織学習」等の発想に基づくことが多かったが,本研究においては,FoucaultならびにHabermasの方法論を折衷することににより,新たな学習理論を発展させた。さらに,最終的に論文化したものをアメリカのネバダ州リノで開催されたWestern Academy of Management 2023にて発表した。
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