本研究の目的は、戦略と人的資源管理の適合が従業員の行動と組織業績に与える影響を明らかにすることである。より具体的に言えば、本研究課題の最終的な目標は、人的資源管理と組織業績との間にあるブラックボックスについて、一定の知見を得ることにおいてる。ブラックボックスに関連する変数としては、従業員の心理や行動、諸制度、資源、戦略など多様なものが考えられるが、初年度は、主に従業員の心理や行動に焦点を当てて考察している。 当該年度は初年度であることも踏まえ、今後の研究を遂行するために必要となる文献研究を中心に、研究計画書で構築した新たな分析枠組みを精緻化することに注力した。戦略的人的資源管理論の系譜を改めて整理するとともに、近年の動向も踏まえ、分析枠組みの見直しを図った。 実証という観点からは、企業に対するインタビュー調査を中心に研究を進めた。多くの企業では、戦略と人的資源管理の一貫性を意識しつつも、必ずしも企業業績に寄与しているという確信を得ているわけではない状況がみられた。次年度以降の調査研究のポイントとなる論点が明らかになったといえよう。また、統計的な分析としては、戦略と人的資源管理の適合が、個人の組織的公正感に与える影響について、詳細な分析をすることができた。本研究では、マルチレベル分析を実施することで、企業ごとの特徴による違いと、適合が従業員に与える影響を分けて明らかにすることができた点は、研究として一歩前進したと考えている。
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