研究課題/領域番号 |
18K01841
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研究機関 | 尾道市立大学 |
研究代表者 |
川勝 英史 尾道市立大学, 経済情報学部, 教授 (40351837)
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研究分担者 |
山中 伸彦 立教大学, ビジネスデザイン研究科, 教授 (40339594)
加藤 浩介 広島工業大学, 情報学部, 教授 (00263731)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 企業の組織デザイン / イノベーション指向 / 経営に対する信頼 / 従業員モラール / 可視化 |
研究実績の概要 |
【内容】(1)創造性志向を有する企業の組織化やその過程に注目し,組織化と創造性の向上との関係などについて考察した.(2)(a)組織改革のタイプは,経営に対する「信頼」に影響を与え,(b)従業員モラールは「信頼」に依存して変化し,(c)従業員モラールは組織改革の成否を決める重大な要因となることを確認した.(a)の関係について,実証分析により定量的に示し,(b)の関係についても次のように定量的に説明することを試みた.つまり,従業員の(心理的な)状態が,改革案に対する「表面上」の同意(信頼に依存)と,従業員の仕事に対するモチベーション(信頼に依存しない)から成る場合を考え,組織改革のタイプに応じた「総従業員モラール」を定式化した.また,従業員の状態の変化を観測するためのシミュレーションモデルを構築し,経営者から改革案が提示された後,(改革期間中において)従業員の状態が時間と共に変化する様子を数値例により示した.また,(3)イノベーションの一環として,自社ブランドを導入する小規模製造業の最適政策についても考察した.ここでは,ブロイラーを生産する小規模な養鶏業が,銘柄鶏(自社ブランド)も導入する場合を考え,この単位時間当たり総利益を最大にするという意味での,製品の最適販売価格,および最適生産計画を求めるためのモデルを構築した. 【意義・重要性】現代の経営環境の不連続的な変化は,多くの企業に組織デザインの再考を強いている.本研究では,組織編成原理を明らかにするためのケーススタディなどを実施し,(当面)解決すべき問題を明確にした,この上で,定量的な手法を用いて,組織改革の成否を決める従業員モラールの変化を可視化した.さらに,銘柄鶏のような自社ブランドを導入する際の最適政策を示すことができた.これにより,組織改革時の企業がとるべき行動に対して,有効な指針を与えることができたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度の研究計画は,(i)従前の枠組みの修正,(ii)新規モデルの提案,(iii)収集したデータの統計解析,(iv)数理モデルの構築であった.(i)から(iii)の進捗状況については,次のように述べることができる.つまり,国内外の企業に対してインタビューを継続して実施しており,順調に事例研究がすすんでいる.この上で,組織デザインと経営に対する信頼を明らかにするためのモデルを修正した(モデルの概要:組織改革のタイプ→経営に対する信頼→従業員モラール→組織改革の成否).アンケート調査により収集したデータに対して,主成分分析を行い,主成分回帰により組織改革のタイプと経営に対する「信頼」との関係を定量的に分析した. またこれまでに,「信頼」と従業員モラールとの関係を,定量的に明らかにしようとする研究は(我々の知る限り)見当たらない.本研究では(iv)の内容として,従業員の(心理的な)状態が,「信頼」に依存する部分とこれに依存しない部分から構成される場合に注目し,従業員モラールを定式化した.この従業員モラールが,「信頼」に依存して時間と共に変化する様子を可視化するシミュレーションモデルも構築している.さらに,イノベーションの一環として,自社ブランドを導入する製造業を意識したモデルも提案した.ここでは,小規模な養鶏業を対象として,自社の銘柄鶏(自社ブランド)を導入するような場合を考え,その最適販売価格や最適生産計画を求めるためのモデルを構築した. しかしながら今後の課題として,社会的経済的環境や文化的背景の違いなどの要因と,イノベーション実現のための組織デザイン構築との関係を考慮した数理モデルも構築する必要がある.このような要因を考慮した場合については,今年度提案した枠組みを,精緻化,拡張することにより対応可能であると考えられるため,「おおむね順調に進行している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は,主に国内企業の組織デザインに注目した.今年度の推進方策については,次の通り計画している.すなわち,企業の組織デザインがそのイノベーションに与える影響について,国内外の企業組織の比較研究を通じて明らかにする.この上で,H30年度に提案した枠組みや数理モデルを拡張し,社会的経済的環境や文化的背景の違いなどの要因と,イノベーション実現のための組織デザイン構築との関係を考慮したモデルを構築する.また,実験により示した従業員モラールの変化について,現実のそれと直観的に一致することは確認できたものの,現実のデータを用いた妥当性の検証は十分ではない.このため,実際のデータを収集する,あるいはこれが困難である場合には,経営者や従業員に対してインタビューを実施するなどして,妥当性を検証しモデルを精緻化する.また,このモデルを用いて,組織改革に関する命令のタイミングや伝達方法に関する最適方策も導出する. 国内外の企業に対して,組織デザインがイノベーションに与える影響を分析するためには,次のようなことも考慮する必要がある.つまり,多国籍企業の子会社(海外子会社)による経済活動は,受け入れ国の企業(国内企業)における技術開発や生産性向上にも影響を与えることが知られている.このような効果はスピルオーバー効果と呼ばれ,海外子会社が「生成」するスピルオーバーには,水平および垂直スピルオーバーがある(必ずしも有益な影響だけを及ぼすとは限らない).このような効果を生成する海外子会社の存在は,少なからず組織の企業デザインにも影響を与えていると考えられる.このため,スピルオーバー効果とイノベーションパフォーマンスの関係についても,詳細に分析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)研究代表者(川勝)分の繰越額は34,394円である.残額が生じた理由として,国際会議参加時の航空券の料金が,予想したよりも安く抑えられたことがあげられる.今年度は,行き先が異なることや為替レートの変動などにより,航空券の料金が(該当年度のそれより)高くなると予想される.この差額分に,繰越金を充当させて頂きたい. (2)研究分担者(山中)分の繰越額は,331,280円である.この理由として,当初予定していたインタビューが,調査協力企業の業務上の都合のため予定した時期に実施できなかったことがあげられる.昨年度に実施できなかったものと合わせて,今年度予定しているインタビュー調査を継続して実施したい. (3)研究分担者(加藤)分の繰越額は,150,000円である.昨年度は,大規模統計処理および機械学習の処理用にGPU搭載コンピュータの購入を予定していた.しかしながら,ビックデータ処理や機械学習のブーム等により機器の価格が高騰しており,予算が足りず購入できなかった.このため昨年度は,現状のコンピュータで処理可能なものに注目して分析せざるを得なかった.今年度は,繰越金と合算して,大規模な統計分析等が可能となるような環境を整備したい.
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