研究課題/領域番号 |
18K01846
|
研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
齋藤 泰浩 桜美林大学, ビジネスマネジメント学群, 教授 (50296224)
|
研究分担者 |
竹之内 秀行 上智大学, 経済学部, 教授 (90297177)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 距離 / LOF / 国際ビジネス / 多国籍企業 |
研究実績の概要 |
①「国際ビジネス研究における距離~理論的イノベーションが起きているのか~」において、国際ビジネス研究の根本的な仮定となってきた外国企業であることによって被る不利益(liability of foreignness:LOF)の源泉の1つである距離をめぐる研究の歩みを振り返り、多くの研究で用いられてきたKogut&Singh(1988)の指標(KSI)を批判的に検討するとともに、新たに提案されている追加された文化的距離(added cultural distance:ACD)と操業年数で重みづけされた距離(time-weighted average distance:WAD)を取り上げ、改良ポイントを整理した。企業の国際化の経験が蓄積されるにつれ、本国と新しく進出する国の間の距離は当該企業が対処しなければならないもっとも妥当な距離ではなくなってきたことを踏まえ、本国以外を基準点に据えるのがACDとWADに他ならない。理論的イノベーションを創出するためには、経験の内容や消耗など改良が必要である。 ②「日本企業の組織構造の変化―多国籍企業の組織構造研究と両利き研究―」では、新たな距離尺度を用いて国際ビジネス固有の両利きを検討する作業の一環として、両利き研究、とりわけ探索と深化を同時に達成する組織デザインとして提示されてきた両利き(空間的分離)と断続均衡をStopford&Wells(1972)から続く多国籍企業の組織構造研究と関連づけた。グローバル・マトリックスは最終段階の組織構造ではなく、微調整を行いながら深化と探索のバランスを経時的に実現しているのである。 ③「日本企業の組織文化と革新―調整メカニズムとしての社会化―」においては、②と同様、国際ビジネス固有の両利きを検討すべく、海外子会社の探索活動を促進する調整メカニズムとしての社会化を再検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究実績①で指摘したように、距離の(非)連続性の問題に関連して、地域間のボーダーが離散的な断続点を構成するため、国際化する企業は国境を越える際に生じるコスト(costs of doing business abroad:CDBA)が非連続的に上昇する国境効果に加え、地域ボーダーを越える際にCDBAが上昇する地域ボーダー効果があることから(Aguilera et al.,2015)、地域の扱いは本研究課題にとって重要な問題として浮上してきた。LOFの地域版であるLORFの存在ゆえ、大手多国籍企業の大半が売上高の大部分をホーム地域内で稼ぐという事実は日系多国籍企業にも当てはまる(Collinson&Rugman, 2008)。ホーム地域内の国の距離が縮まると、立地に縛られていた企業特殊的優位(Firm Specific Advantages:FSA)も本国の国境を越えてホーム地域内で配置・活用が可能になるが(Rugman&Verbeke,2008)、ホーム地域を越える際に追加的に負うCDBAはホーム地域内での拡張に伴うCDBAよりも大きいと考えられている(Rugman&Verbeke,2007)。果たして、地域間ボーダーは非連続性をもたらすのか?、日系多国籍企業の逸脱事例であるホンダやトヨタや日産はなぜホーム地域志向ではないのか?ホームベース概念にとっても検討が必要であるため、LORF問題に時間を割くこととなったからである。 また、研究代表者の勤務先では2021年度は4月から対面授業を軸に授業を行ってきたが、3密を避けるようアナウンスが流れていても、ゼミともなればソーシャルディスタンスを維持することは難しかった。学生の感染者も増えるなか、学生にデータ整理を手伝ってもらうタイミングを逃してしまい、自分たちでデータベースの構築に取り組むことにしたからである。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、[現在までの進捗状況]で述べたLOFとLORFに関する論文を8月までに仕上げる。研究実績①で述べたように、当初改良版新型ダイナミックLOFの開発には、文化ブロックを用いてどのような学習の立地経路が成功するかを考察したBarkema et al. (1996)に倣い、文化ブロック(Ronen&Shenkar,1985)の導入を検討していた。国だけでなく文化ブロックにもボーダーがあり、そのボーダーが生み出す非連続性をどのように距離尺度に組み込むかは本研究課題のまさに課題の1つだが、多国籍企業の本国地域志向を指摘し、リードしてきたRugman&Verbeke(2007)などの地域とはアジア・北米・欧州のいわゆる「トライアド」である。地域内での国際化を通じて、多国籍企業は地域内の他の国で低コストで再配置できる資源を開発すると考えるArregle et al.(2016)は、ホーム地域内の複雑性に着目する。地域のグルーピング方法そのものが研究テーマの1つになってもいて(Flores et al.,2013)、重要な問題と考えている。 その考察に基づき、地域ボーダーによる非連続性等を考慮した距離尺度を年内に開発し、日系自動車部品メーカーの立地選択について実証研究を行う。その過程で、副産物として研究業績②③で検討してきた探索と深化や、文化ブロックの議論を盛り込みながら、国際ビジネス固有の両利きに関する議論を深めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は現時点での研究成果を出すことに重点を置いたことにより、統計ソフト(STATA)はアップデートせずに取り組んだため、統計ソフトと海外進出データの支出は次年度に回すことにしたためである。 したがって、本年度は統計ソフト(15万円)、自動車部品メーカーの海外進出データ(20万円)、学会発表のための旅費(5万円※オンライン開催の場合あり)に支出する計画である。
|