研究課題/領域番号 |
18K01846
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
齋藤 泰浩 桜美林大学, ビジネスマネジメント学群, 教授 (50296224)
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研究分担者 |
竹之内 秀行 上智大学, 経済学部, 教授 (90297177)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多国籍企業 / 距離 |
研究実績の概要 |
「日本企業のホームリージョン志向―ICA測定方法を用いた試論―」を『ビジネス科学研究』第5号に投稿中である(掲載予定)。 ホームリージョン志向(以下HRO)とは「ホームリージョンの外ではなく内で拡張する企業の傾向」(Banalieva&Dhanaraj,2013:p.90)と定義される。Rugman&Verbeke(2004)などによって、多国籍企業はイメージとは異なりHROだったことが示されてから、HROをめぐる研究が数多く蓄積され、Collinson&Rugman(2008)によって日本企業も例外ではなくHROであることが明らかになった。 距離(地理的な距離)の特性が対称性、連続性、時間が経過しても安定的であるのに対して、メタファーとしての距離=違いは非対称性、非連続性、時間の経過とともに変化し得る、という特性があり、リージョン間ボーダーは離散的な断続点を構成すると考えられ、リージョン間のボーダーを越える際にコストが急増する。このリージョン間LOF(LORF)がリージョン内拡張のコストをリージョン間拡張のコストより小さくするため(Rugman&Verbeke,2007)、HROが魅力的なソリューションになる。 本稿では、Bruyaka&Prange(2020)のICA(international cultural ambidexterity)測定方法を応用して、例外的なグローバル企業であるキヤノンに焦点を当てたところ、HRO企業で想定される国際化パスとは異なる経路を示していた。ICAは、われわれが重要視する距離の測定において基準点を本国以外に移動するACD(added cultural distance:追加された文化的距離)に基づいた測定方法であり、距離尺度を検討するうえでの課題を再確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
キヤノンの国際化パスを記述するために今回試みたICAの応用バージョンでは、①本国とホームリージョン内の国は距離が近く、あるリージョンを構成する国と国の間の距離は当該リージョンの外の国との距離より近いという仮定の下、②販売子会社も生産拠点もR&D拠点も海外進出として等しく扱い、③同一リージョン内の他の国への進出をパーシャル(C)、すなわち活用0.5+探索0.5とカウントした。 しかし、リージョンの区分を拡大版日米欧三極にしたこともあり、同じリージョン内でも距離の近い国もあれば離れた国もある。また経験する内容によって学ぶことも異なるはずであり、経験の内容についてはWAD(time-weighted average distance)の測定でも課題になっている(齋藤,2021)。同一リージョン内の国と国はリージョン間の国よりも相対的に類似しているという仮定を見直し、マハラノビス距離に基づくWADを用いた距離を反映させれば、活用0.5+探索0.5ではなく、たとえば活用0.7+探索0.3など、パーシャルの値に変化をもたせることができそうである。LORFをもたらすリージョン間ボーダーで発生するいわゆる「スパイク」をいかに組み込むか検討する必要があるが、ICAを改良することはWADなど距離尺度の精緻化につながり、距離尺度の課題を解決することによりICAをさらに改良できるに違いない。 以上のように、WADを用いて立地選択研究に取り組む前にICAを理解し応用したため、本研究課題に遅れが生じてしまった。とはいえ、ICAを通じてWADの課題も明確になってきたので、価値のある遅れだと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
①2023年10月までに、国と国との多次元マハラノビス距離および各国での販売・生産・研究開発といった活動内容を盛り込んだWADを用いてICAをバージョンアップさせ、国際両利きに関する論文をまとめる。 上述したように、売上高の地域別ゼグメントデータを使用している都合上、必ずしもリージョン内の国々がリージョン外の国々と比べて類似性が高いわけではない。類似性が高くなくても、リージョン内の他の国への進出はパーシャル(活用0.5+探索0.5)と一律にカウントしたが、WADを用いることによりバリエーションを持たせることが可能になる。 ②2024年3月までに、さらにリージョン間のボーダー効果を考慮したWADを用いて、立地選択に関する論文をまとめる。 上述したように、国際化する企業は立地間の違いから生じる空間的異質性の連続的かつ漸次的な増加である距離効果に加え、国境を越える際に生じるコストの非連続的な急増である国境効果、さらにはリージョン間のボーダーを越える際にコストが急増するリージョン間ボーダー効果に直面することになる。このリージョン間ボーダー効果の組み込み方については今後も検討が必要だが、データベースを構築して立地選択との関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
過去に自動車メーカーや自動車部品メーカーの海外進出データについてはフォーイン社やアイアールシー社の調査報告書を使用したこともあり、『日本自動車部品メーカーの新興国戦略』のような報告書の発売を期待していたのだが、海外進出は調査項目として以前より重要でなくなったのか発売されそうもなかった。そこで、東洋経済新報社のデータサービスの「海外進出企業データ」を検討してみたところ、220,000円(税込)と高額だったため購入を躊躇してしまった。しかし、同データは時系列リサーチが可能であり、われわれの研究課題にやはり合っていると思われるので「海外進出企業データ」を購入する。 残りの51,430円はデータ入力のアルバイト代として使用する予定である。
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