研究課題/領域番号 |
18K01847
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
牛島 辰男 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80365014)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 経営陣 / 管掌構造 / 内部資本市場 / 多角化企業 |
研究実績の概要 |
2020年度においては、日本の上場多角化企業(金融機関を除く)をサンプルとして、その内部資本市場の効率性が、経営陣の特性を含む様々な企業属性とどのように関係しているか、2001年以降のパネルデータを用いた統計的分析を行った。内部資本市場の効率性の指標としては、ファイナンス分野での多角化企業研究において一般的に用いられている相対付加価値(relative value added: RVA)と、RVAについて指摘されることの多い問題点(事業セグメントの成長機会を産業一般の成長機会で代理すること)を改善した独自指標である修正RVAを用いている。
分析の結果として、研究開始時に期待したような、経営陣の管掌構造と内部資本市場との働きの間に有意な関係性は見いだせなかった。経営陣の人数や平均年齢といった一般的属性と内部資本市場の間にも強い関係は見られなかった。これは企業間で厳密に比較可能な形で経営陣を定義することの難しさが関係している可能性があるため、何らかの改善がはかれないか作業を続けているところである。
一方で、企業の組織属性と内部資本市場の効率性の間には、いくつかの興味深い相関が見いだされた。特に企業(組織)の年齢は内部資本市場の効率性に強い負の影響を及ぼしていることが確認できた。これは組織論においてliability of aging と呼ばれる効果と非常に類似しており、興味深い発見といえる。このため、この関係を深堀りする形で論文にまとめ、ワークショップ(オンライン)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗が遅れがちである理由は大きく2つある。第1は、企業間で厳密に比較可能な経営陣の定義を作ることが、当初の想定よりも難しいことである。代表権を持つ役員など経営陣の定義を狭くすることで、すべての企業に当てはまる定義を得ることはできるが、該当する経営陣メンバーが少なくなり、この研究の本来的な関心である管掌構造などの特性の把握が難しくなる。一方で、そうした把握ができるようにすると、特に執行役員制度を導入している企業において、どこまでを「トップマネジメント」と捉えるかの線引きが難しくなる。上述の通り、この問題については何らかの改善がはかれないか、現在さらに検討しているところである。
第2の理由は、コロナ禍の影響により、研究成果の発表とフィードバックを得る機会が制限されていることである。特に内部資本市場の研究が盛んな米国の学会はキャンセルやオンラインのみでの開催となっており、有意義な形での参加が難しくなってしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
内部資本市場と企業の組織年齢の関係についての分析は、既に論文としてまとめており、2021年度内に経済産業研究所の英文Discussion Paperとして登録する。また、若干の改訂を加えた上で、国際ジャーナルへと投稿する予定である。
また、経営陣の定義(範囲)についてさらに改善を重ね、なるべく明快な結論が早期に得られるように努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」に記したように、研究の進捗が全般に遅れ気味であることが主な理由である。次年度使用額は、論文の英文校正費とジャーナルの投稿料(査読料)を主な使途とする計画である。
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