2021年度においては、経営陣(トップマネジメントチーム:TMT)の管掌構造について分析を進めると共に、多角化企業の内部資本市場の効率性と企業組織の年齢(社齢)の関係についての研究を英語論文としてまとめた。本来はTMTの管掌構造と内部資本市場の関係を主たるテーマとする計画であったが、残念ながらよい結果を得るに至らなかった。一方で、内部資本市場と社齢の関係については興味深い発見が得られたため、これを中心に論文にまとめ、TMTの考察を織り込む形に変更した。
具体的には、事業セグメントデータを開示している日本の上場企業のデータに基づき内部資本市場の効率性を2つの尺度で計測し、それらと社齢(企業設立後の経過年数)との関係を分析した。その結果、これらの要因の間には有意な負の関係が存在しており、社齢の高い企業ほど事業間の資金配分が非効率になる傾向が見いだされた。この傾向は事業間で成長性の格差が大きく、産業の変化が激しいなど、資金配分の柔軟性が重要な企業で特に顕著である。また、持株会社への移行など大掛かりな組織改編を行った企業では弱められる。さらに、社齢と内部資本市場の関係性を、経営陣メンバーの数や管掌構造、トップの年齢など、組織ヒエラルキーの頂点にあたるTMTの属性だけで説明することはできなかった。これらの結果は、企業の組織自体の高齢化が資源配分のプロセスに硬直性をもたらし、事業間の円滑な資金移動を妨げる要因となることを示唆している。
この研究成果は日本経営財務学会の国際会議でオンライン報告した。論文は国際ジャーナルに投稿し、現在は査読審査の過程にある。
|