研究課題/領域番号 |
18K01851
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
平澤 哲 中央大学, 商学部, 教授 (70610963)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会問題の原因解明 / 問題解決の示唆の提供 |
研究実績の概要 |
本研究は、障害者の就労条件の改善に向けてビジネスを展開している社会的企業に注目し、ソーシャル・イノベーションの形成やその影響について、フィールド調査を通じて明らかにすることを目的としています。これにより、障害者の就労問題を学術的に解明するとともに、問題解決に役立つ実践的な示唆を導き出すことを目指しております。1年目にあたる平成30年度には、障害者就労及び社会的企業家に関する文献を収集し、現状や問題に関する理解を深める一方で、フィールド調査を通じて、データを収集することに専念しました。具体的には、パンの製造・販売を通じて障害者の就労条件の改善に取り組んでいる組織において参与観察を7ヶ月間行い、就労現場の実態を把握するとともに、インタビューを行うことにより、現在の課題や就労条件を向上させるための試みを学ぶことができた。また、障害者の雇用機会を農業分野に創出するという「農福連携」を推進・展開している組織を対象として、ソーシャル・イノベーション創造の舞台裏について現場観察を行いました。その際、障害者の家族、社会的企業家、福祉施設の管理者、公的機関の職員など、複数の利害関係者の声をインタビューから学ぶことにより、問題の所在や解決策について多角的に理解することを試みました。最終的には、現場観察の合計時間は400時間を超え、インタビューの回数も50回以上に到達することができました。また、関連した文献資料も多数入手しました。調査対象を2つに絞って丹念に現場調査を実施したことにより、現在の問題を深く理解する上で重要なデータを集めることができました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定性的な調査研究を遂行する上での重要な課題の1つは、フィールド調査を行うことについて様々な関係者の方々の了解を頂くことにあります。個人や組織の情報秘匿のため、近年、調査の了解を得ることは容易ではありません。しかし、今年度の活動では、2つの組織の関係者の方々から内部調査の許可を頂きました。あと、もう1つの研究上の課題は、フィールドの関係者と良好な社会関係を築きし、重要な場面の観察やインタビューに積極的に応じてもらうことにあります。この点も御了解を頂き、重要な会議への参加を認めて頂くとともに、長時間にわたるインタビューにも快く応じて頂くことができました。さらに、組織の内部資料なども御提供して頂きました。こうした結果、障害者就労に関する重要なデータを集めることができました。ただし、データ収集に時間をかけたため、データ分析のための準備である膨大なインタビュー記録の文書化を完成させることができませんでした。この作業は2年目の課題として残りました。しかし、総じて、当初予定していた作業を殆ど全て終えることができたという点で、本研究は、おおむね順調に進展しております。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、収集したデータの定性的な分析と研究成果の発表に専念していきます。定性的な分析では、グランデッド・セオリー(Glaser & Strauss, 1967)に基づき、データを帰納的に分析していきます。2年目の平成31年度には中央大学の在外研究制度(1年間)を活用し、Boston College (米国)にて研究活動に専念しており、この機会を活かし、欧米の先進的な分析方法や理論的な知見を学習しながら、就労問題が慢性化する背後の制約条件、これを減らすためのソーシャル・イノベーションの創造・実行、障害者の働き方の変化を解明していきます。データ分析では、欧米の組織研究者からもアドバイスを適宜頂くことを予定しております。また、調査の協力組織を再度訪問し、更なるデータを収集する一方で、分析結果を調査協力者にフィードバックすることにより、発見の妥当性を向上させることに努めていきます。研究成果は、海外学会で発信し、その後、国際的に評価される査読付きのジャーナルへ投稿する予定です。ただし、就労問題の解決には、学術的な知見の蓄積と発表に留まらず、実践の側面での進歩が不可欠であるため、本研究から導き出される実践的な示唆については、 一般読者に向けの書籍による公表や障害者就労セミナーでの講演を通じて、より多くの方々が現状の問題を認識し、解決に向けて協力していけるように尽力していきたいと思います。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた人件費・謝金が発生しなかったため、次年度使用額が生じました。この金額につきましては、海外研究者との交流のための旅費に使用したいと考えております。
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