研究課題/領域番号 |
18K01853
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
児玉 充 日本大学, 商学部, 教授 (90366550)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 情報経営 / ナレッジマネジメント / ICT / 知識共有 / 知識活用 / 新製品開発 / 組織変革 / モチベーション |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究では、企業における組織変革と働き方改革に対して、企業内外の知識コミュニティがいかなる特質を有し、これらの知識コミュニティがいかなる戦略的および組織的文脈でICTをどのような形態で活用していくかについての経営要素を明らかにすることに集中した。このためには企業における知識コミュニティの特質に関して、先行研究から明らかにした上で、これらコミュニティにおける各種ICTの活用形態を分析する必要がある。 本研究では知識コミュニティの特質と類型化について先行研究より明らかにする。類型化へのアプローチとして、(1)企業活動における新事業の開発(例えば、新商品の開発)と、(2)既存事業の推進(既存商品の改良・改善・バージョンアップ)という2パターンの業務形態とプロセスの中で、これら知識コミュニティがVCTをどのように活用しているかを分析した。しかし、これまでのVCTに関する情報システム研究では、これら2パターンの業務プロセスから生成された知識コミュニティの側面からの実証研究や事例研究はほとんどない。さらに業務内容の詳細に踏み込んだ活用形態や異なる業務内容に焦点を当てたICTツール活用との関係性の研究は未開拓である。本研究ではこれら2パターンの業務プロセスに関係する組織形態である知識コミュニティは異なるという仮説を有している。 同時に、リサーチクエスチョンと分析フレームワークを踏まえ、IT、通信、エレクトロニクス、電機、工作機械、自動車(部品メーカ含む)、半導体、化学製品、医薬品等の各企業(日本企業:28社、海外企業:22社)を対象に、「新商品・新事業開発」と「既存商品・既存事業」という2パターンの業務内容とプロセスに対応したICTツールの種別と活用実態について、半構造化インタビューが実施された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
企業へのインタビューが順調に行われたことによりリッチなデータが収集できた。インタビューは各企業の商品企画部門、事業企画部門、情報システム部門、支社・支店、営業部門・工場などのマネジャー(エグゼクティブも含む)に対し、各企業に対して複数回にわたり約1~2時間行われた 。また必要に応じて社外への公開資料や入手可能な社内資料も、インタビューデータの補完情報として活用が可能であった。ICTツールの種別は、電話、電子メール、音声会議システム、ビジネスチャットシステム、データ会議、社内SNSツール、そして、Web会議システムやビデオ会議システム、UC、クラウド型ビジネスアプリといったビデオ通信機能のあるICTに分類した。 ICTの戦略的及び組織的文脈に対応した活用形態に関する研究は、先行研究の蓄積が少ない。従って、本論文では既存の理論から導き出せなかった新たな理論的カテゴリーの生成を容易にするために必要とするデータをインタビューから取得し、グランディッド・セオリー(e.g., Glaser and Strauss, 1967)による定性的な研究方法論が採用された。現在、膨大な質的データの分析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はICTを活用した組織改革や社員の働き方改革をメインのテーマとしているが、インタビュー調査から本研究テーマに関連した新たな研究課題も発見されこれも含めた包括的な研究の推進を予定している。 例えば、企業が商品開発業務の状況や内容に対応してICTツールの種別や機能を使い分け、新製品開発という「不確実性のマネジメント(exploration)」と既存製品バージョンアップという「既存事業のマネジメント(exploitation)」の両立(Kodama and Shibata, 2014)という「Ambidextrous ICT management(両利きのICT経営)」をどのように実行していくかのミクロな解明にある。2点目は「場」の形成を基礎とした知識コミュニティやネットワーク化された知識コミュニティ群の構築力の源泉である「ICT能力」(Kodama, 2013)の解明にある。ICT能力は顧客を含めた企業内外の知識を創造(統合)し、新たな「バウンダリー・イノベーション」を生み出し、企業が長期的に持続的競争優位性を獲得していく上で重要な経営力となる。このようなICT能力は企業における組織能力と密接な関係にあり、組織改革や社員のモチベーションの高揚(結果として、働き方改革を実現するという仮説)と推察される。従って、今後のICT能力に関する分析アプローチとして、昨今注目されている組織や企業の「ダイナミック・ケイパビリティ」や「オーディナリイ・ケイパビリティ」の文脈(e.g., Teece, 2014)からの分析がなされる必要があると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は先行研究のレビュー(必要に応じて文献を購入)と企業へのインタビュー調査(ビデオ会議による手段も含む)が主であったが、テキストデータの分析は極力経費を削減するため外注を避けると同時に、海外への出張や翻訳などの費用も生じなかった。平成31年度は国際学会での論文発表や海外ジャーナルへの論文投稿に向けての翻訳費や書籍購入費(ジャーナル論文ダウンロード費含む)などが発生する予定である。
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