最終年度となる2021年度は、これまでの研究の総決算となる論文1本の執筆と、その成果の一部を援用した学会報告を行うことができた。 論文においては、まず我が国の産官学が従業員エンゲージメント(Employee Engagement:以下EE)への関心を高めていること、それにもかかわらず各種調査で低調な日本人従業員のEE度数が判明している現状を確認した。そのうえで、低い日本人のEE度数の背景とその打開策を模索するべく英国の批判的EE研究を含む示唆的な所論をサーベイし、併せて今般指摘されている日本の労働問題を検討した。その結果、日本人従業員のEEが総じて低い水準にとどまっている理由として、仕事の資源と個人の資源の不足を確認した。さらに、こうした状況を改めEEを向上するため、仕事の資源拡充を中心としたHRMの整備を進め、持続可能なエンゲージメント構築を図っていくことの必要性を見出した。その際、適正な資源の付与を担保するために従業員による発言機会が機能することが必要不可欠となる、以上が同論文の結論であり、こうした取り組みが日本型EEマネジメントモデル構築の要諦となるとの見解が本科研研究の課題に対する一応の回答となる。 後者の、学会報告は直接的にはアメリカの労使関係、とりわけ非組合型従業員代表制度に関する考察を目的としたものであったが、現状の同国労使関係研究が、組織行動論やHRMに先導される形で単元主義的準拠枠一色になりつつあることとその弊害を説くにあたって、従来のEE研究がその典型であることを示すことができた。この意味で、この報告の結論部分は本科研研究の成果に依拠したものであるとみなしうる。 両研究成果を通じ、多元主義的準拠枠を用いたEE研究の必要性を提示したという点で学術的な貢献を、仕事の資源拡充を核に、持続可能なEE構築を提言した点で実践的な貢献をなしえたものと総括できる。
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