本研究の目的は「ファミリー性」の概念を応用し、日本のファミリービジネスの競争優位の源泉を明らかにすることである。そのために、研究期間を通してファミリー性に関する文献研究をはじめ広く文献研究と事例研究を進めてきた。その結果、好業績ファミリー企業にはファミリー性と呼ぶべき特殊な経営資源が存在するとともに、社会情緒資産という概念が家族の間だけでなく、地域にも拡大して適用が可能であることが明らかとなった。具体的には地域への貢献や業界への貢献を通して、非財務的な価値を追求する伝統産業におけるファミリービジネスの存在が明らかとなった。 事例研究ではそのようなファミリー性や社会情緒資産を保有している地域の伝統産業である大阪府堺市の線香産業、刃物産業、注染和晒産業に注目し、ファミリービジネスの競争優位性を明らかにしようとした。線香産業は伝統産業であり、地場産業として産地に集積を形成し、ファミリービジネスの要素を強く持っている産業である。また長寿企業としてその業界で長く活躍する企業も多い。刃物産業も同様に中小規模の企業が多く、地域内分業のシステムにより、単独での生き残りではなく同業組合を形成し、それを通した業界全体の発展を模索している。 研究の成果として明らかになったことは、これら企業や同業者組合は社会貢献・地域貢献を目指した経営理念のもと、独自のブランドを構築していることが明らかとなった。それらはファミリービジネス特有の家族の絆とともに、多くの企業の横のつながりにより補強されていた。これらのことを検証するために質問票調査を実施し、経営理念やブランド、社会貢献のための明確な戦略を保有していることが伝統産業におけるファミリービジネスの競争優位につながっていることが明らかとなった。
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