まず,筆者が最終(令和3・2021)年度に実施した研究の成果について述べる。筆者は,令和3(2021)年度においてこれまでの研究成果の公開に努めた。具体的には,これまでの研究成果を博士論文の指導教員と共著で英文論文にまとめ,査読付き国際雑誌へ投稿した。その結果,「大幅修正(Major Revison)」の判定を1次査読において受けた。筆者らは査読者の要求にしたがって論文を修正し,修正論文を投稿した。本報告書を執筆している段階では,修正論文の査読結果を待っている状況である。 次に,筆者が研究期間全体を通じて実施した研究の成果について述べる。筆者は,研究期間全体を通じて,日系多国籍企業の海外子工場が生産技術システムを他国の海外子工場に教える際に,教える側の海外子工場における技術者や作業者も当該生産技術システムの要素や要素間の関係について理解を深め,それによって海外子工場の生産能力や開発能力が向上し,海外子工場の自立につながるというメカニズムを明らかにすることができた。 この研究の成果は,主に「教えられることの効果」を主張してきた従来の学問に対して大きな一石を投じようとする意義をもつ。経営学に対しては,教えることを通じた人材育成,多国籍企業論と国際経営論に対しては,「学習の経済」に基づくトランスナショナル経営,技術移転論に対しては,共同学習システムとしての技術移転と相互マザー工場システム,知識移転論に対しては,知識供給側における知識の更新という概念をそれぞれ明らかにして,理論的に貢献している。また,海外子工場の自律と他律の調整モデル,ブロック経済化への対処という,多国籍企業の経営方針を示して,実践的にも貢献している。本研究の成果は,このように理論的にも実践的にも大きな重要性をもっており,学会でも少しずつ評価され始めている。
|