研究課題/領域番号 |
18K01886
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
東 伸一 青山学院大学, 経営学部, 教授 (70368554)
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研究分担者 |
横山 斉理 法政大学, 経営学部, 教授 (70461126)
矢澤 憲一 青山学院大学, 経営学部, 教授 (70406817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 小売業 / 業態 / 競争 / QCA / 衣料品専門店チェーン / 食品スーパー / 流通 / 商業 |
研究実績の概要 |
本研究は、「衣料品専門店チェーン」と「食品スーパー」というそれぞれ衣服・身の回り品小売業、そして飲食料品小売業を代表する小売業態を観察対象として設定し、各々の業態内で観察される個別チェーンレベルでのパフォーマンスの優劣に影響を与える原因条件の組み合わせとその長期時系列での変化について、質的比較分析(QCA: Qualitative Comparative Analysis)を用いて明らかにするものである。研究方法としてのQCAは、統計的因果分析とは異なる認識論的前提に依拠する。QCAは少数サンプルによる因果推論を可能とし、個別事例に関する知識を分析枠組みに反映させやすい性格を有する。また,QCAの導入により,説明変数間の交互作用の想定を置くことができ,複雑な因果経路の考察が許容される。これらの点を踏まえたQCAの特徴は次の4点に集約される。(1)加法定理を仮定しない。(2) 因果関係の一様性を仮定しない。(3)因果対称性を仮定しない。(4)必要条件と十分条件を峻別する。 本研究が対象とする二種の小売業態は取扱品目の特性においては大きく異なるが、チェーンストア・オペレーションを採用した経営形態である点においては共通している。一般に飲食料品においては、商圏間での需要差異が大きいと考えられている。実際に食品スーパー業態の内部では上位2社による小売集中度が比較的高いものの、それ以下の序列をみると小規模な地域チェーンのべき乗分布が観察される。一方、衣服・身の回り品においては相対的に需要の同質性が顕著であり、衣料品専門店チェーン業態の内部でも上位チェーンによる集中度は高い。 この点を踏まえ、衣料品専門店チェーンと食品スーパーとの間で各々の業態内部における優劣を規定する原因条件の組み合わせパターンの比較・検討をおこない、さらに同一データセットの多変量解析による分析結果との比較を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、その準備期間から研究成果公表に至るまでのプロセスを6つのフェーズに分割する形で研究計画を策定している。それぞれのフェーズにおける主要な活動は以下のとおりである。 【PHASE.1】日本の小売業の長期的構造変化の動態の把握と衣料品専門店チェーンおよび食品スーパー業態の地位変動を整理したデータベースの作成 【PHASE.2】前フェーズで構築したデータベース内の各期間における各チェーンの「優劣」を峻別するための結果指標の検討 【PHASE.3】データベース内の各分析期間での観察対象となる小売チェーンの事例分析セットの作成 【PHASE.4】QCAによるデータセットの解析と結果の解釈 【PHASE.5】同一データセットのデータの多変量解析による分析の実施とQCAを用いた分析・解釈結果との比較・検討の実施 【PHASE.6】研究成果のまとめ(国内外の学会報告、国内外の学術誌への投稿、学術書の執筆 など) 2018年度は本研究課題の初年度にあたり、当初の研究計画においても「研究の準備期間」としての位置づけをおこなっていたが、概ねその計画通りに研究活動が推移しているといえる。具体的には、PHASE.1のデータベース構築作業が完了段階に近付いており、それと並行してPHASE.2および3に含まれる作業にすでに着手している。 研究費の執行については、2018年度に設計と構築をおこなった部分の専門店チェーンおよび食品スーパーに関するデータベースのデータ源一式を古書店より格安に入手することができたことなどがあり、大幅な節約につながった。これにともなって生じた繰り越し分の予算については、本研究におけるミックス・メソッド(mixed methods)の充実を図るための追加的サーベイなどに充当することを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】の中でも述べた通り、2018年度の研究活動は概ね計画通りに推移し、データベース作成のための予算執行も当初計画と比較し、大幅な節約が可能となる形で作業が進行している。これらをうけ、以下の2点にとくに注力することを通じて2019年度および2020年度の研究活動の推進と充実を図ってゆきたい。 1. 研究(途中)成果の報告への注力:PHASE.1~4について、まず衣料品小売業に関わる部分の作業を早期に完了させ、ワーキングペーパーの刊行と英国の学術誌への投稿をおこなう。その後、飲食料品小売業の領域についても同様のステップを踏み、こちらは国内での論文発表をおこなう。 2. ミックス・メソッド(mixed methods)の充実への注力:飲食料品小売業においては、すでに一部で深刻化している人口密度低下と高齢化率の上昇により、小商圏の小売事業モデルの必要性が高まっている。この点についての知見を深めるための調査を追加的に計画・実施し、QCAと多変量解析双方による同一データセットの分析をおこなう上で不可欠となる知見を強化したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した理由は以下のとおりである。 1. 【現在までの進捗状況】においても述べた通り、観察対象についてのデータベース構築に際してその主要部分を構成するデータ源の多くを格安の古書によって入手することができたため、その点での費用削減につながった。ここで削減した予算については、ミックス・メソッド(mixed methods)を充実させるための追加的サーベイに充当する計画を立てている。 2. 本研究は、比較的大きな研究対象を設定しているため、初年度である2018年度においては、データベース作成や事例資料の収集、先行研究の渉猟と整理といった準備段階のインプット的作業に多くの時間を費やさざるを得ない状況となった。これにともなって、途中成果の発表などのために計画していた学会報告や事例知識の充実のために計画していたインタビューを目的とした一連の出張を次年度に延期することとした。このことからも繰り越しが生じているが、本研究の研究代表者は2019年度に研究期間を取得しており、延期となった学会への参加やインタビュー調査のための出張などについては、支障なく遂行することが可能である。
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