2023年度は研究計画の第3フェーズである定量調査、分析、成果発信を行った。COVID-19の流行により繰り返し延期せざるを得なかった実証研究のためのサーベイは、紆余曲折の結果、手渡しによる実施を断念した。代替手段として、本研究の問題意識に沿った既存のデータを探り、分析、論文執筆、投稿を行った。ただし、厳密なダブルブラインド査読を実施する海外ジャーナルに投稿しているため、審査期間が長引いており、未だ出版には至っていない。一方で、本研究課題を進める上で得られた知見は、2023年7月に出版されたマーケティングの重要概念および理論枠組みを解説する専門書の一部に反映されている。 2023年度にはまた、定量調査の成果発信と並行して、当該研究テーマの経験的研究を実施するための方法論についての理解を深めた。小売競争と地域多様性の相互作用は、世界中で普遍的に観察できる現象もあれば、歴史や文化に埋め込まれた固有な現象もある。研究代表者と分担者は、要因間の複雑な相互作用を考慮した上で、サンプルサイズやサンプルの代表性に依存しない系統的比較が可能な解析手法である質的比較分析(QCA)についての専門書を翻訳することで、その理解を深めた。原書はヨーロッパにおけるQCAの定番テキストの一つであるため、その邦訳書の出版は本研究課題の成果の一つであるだけでなく、日本国内での方法論の普及に大きく寄与する可能性があると期待している。
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