研究課題/領域番号 |
18K01901
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
玉置 了 近畿大学, 経営学部, 准教授 (40434849)
|
研究分担者 |
若林 靖永 京都大学, 経営管理研究部, 教授 (70240447)
堀川 宣和 星城大学, 経営学部, 講師 (20761604)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | SNS / 画像投稿 / テキスト分析 / 観光 |
研究実績の概要 |
本年度は,昨年度までに収集した日本の観光地に関する外国人観光客や観光客向けの英文ツイートをもとにした成果の公表に向けた研究をすすめた。特に画像投稿に対する読者の反応の特徴を明らかにすることを目的に,SNSへの投稿への反応として「いいね」に着目し,画像投稿とテキストのみの投稿とでいいねが促される内容を比較した。いいねは本研究のテーマの1つである共感を示すリアクションでもある。上記の外国人観光客に関するツイートのうちKyotoが含むツイートを研究対象とし,深層学習を用いて京都に関する観光ツイートを抽出した。テキスト投稿と画像投稿,いいねの大小によりツイートを4群に分類し,LIWC2015によるテキストの数量化により,各群のツイート内容を比較した。結果として,いいねが多い画像は画像・テキストともに感情的・認知的な語,動作や時間に関する語,一人称の代名詞の使用が多いことが示された。この研究では,投稿に登場する個人,特に投稿者自身の経験,つまり投稿者自身の行動とそれに伴う感情や思考を時間的文脈とともに語るという投稿に共感としてのいいねという反応が得られやすいことが明らかになった。またテキスト投稿の方がこれらの語の出現率が高いことも示され,このような画像投稿の言葉による表現の少なさという結果からは,添付された画像が投稿者の経験を代弁する内容であるのではないかという仮説が得られた。これらの結果を理論的に説明するために,消費者のアイデンティティに関わるエピソードに関する理論のレビューを行った。さらに,いいねが多く得られる投稿の画像には投稿者や投稿に登場する人物のエピソードを示す内容が含まれるという仮説のもと,Google社の提供する画像認識APIをもちいた画像の内容分析を行い,その結果をまとめたものを現在学術誌に投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,SNSにおける実際のデータを用いて,消費者の投稿や反応をアイデンティティと共感の理論的視点から解明することを目的とする点にある。研究初年度は,SNSからのデータ収集プログラムの作成とデータ収集を行い膨大なSNSデータの収集を行った。初年度後半から昨年度は,そのなかから研究に適したデータを機械学習を用いて抽出する方法の検討を行い,日本の観光地に関する英文ツイートの抽出に関しては分析に妥当なツイートの抽出に成功したと考えている。さらに,理論的にもアイデンティティとの関連が見られるエピソードに関する研究視点から,SNSにおける読者の共感反応としての「いいね」の視点から分析を行い,研究目的に沿った研究が進められている。また,LIWCによるテキストの数量化や深層学習を用いた物体認識による画像の内容分析など,今日の情報技術の進展に合わせた研究方法の確立に向けた研究への展開ができたと考えている。しかしながら,観光といっても日本の京都だけを対象にした研究にとどまっており,他地域の投稿の分析,さらには観光以外の食に関する投稿の分析という課題が残されている。さらに,本研究はSNSの画像やテキストデータをもとに研究を進めてきたが,最終年度は消費者個人を被験者とした対面実験を予定していた。また,可能であれば企業や組織のSNSによる実験を通じてより実践的な提案を目指していた。しかしながら,COVID-19の影響により実施が困難となり,計画の遂行が出来なかった点で遅れが出ている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の現時点における第1の成果は,Twitterのようなタイムラインで発信が行われるSNSからのデータ抽出とテキスト・画像の内容分析の方法確立である。前者については,近年では特定のテーマに基づいてコミュニティを形成するのでは無く,個々人が所有するアカウントでのタイムラインから消費に関する情報が発信されており,特定のブランドや製品カテゴリーに関する投稿を抽出するのが困難な中,その手法を提案する1つである。後者についても,特に画像による発信が増加する中で,本研究はその手法を提案するものである。今後は,観光だけで無く,その他のテーマに関する投稿に同手法を適用して,方法の妥当性,信頼性を確認する必要がある。また本研究が分析してきた観光というテーマについてはCOVID-19により,旅行が制限されているが,本研究の観光に関するSNS投稿は,観光地と離れていても観光地や宿泊施設に関する情報発信や交流,旅の思い出を振り返ることが出来る手段となるため,その意義が減じられるものでは無い。しかし,旅行行動自体が今後変化するとすれば,同時にSNS投稿の変化も検討する必要があると考えている。 理論的には,SNSによる消費者の情報発信がアイデンティティと関連し,その反応として読者の共感が影響していることがSNS上の行動データからは説明されている。しかし,研究結果の妥当性の確認のためには,実験による検証が不可欠であり,次年度に充分な感染症対策を行った上での対面実験もしくはオンラインでの実験を実施したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の公表が途中段階にあり,英文校閲の追加的な発生の可能性がある。またこれまでの研究結果の妥当性を確認するための対面式の実験も当初予定していたがCOVID-19の影響により実施できなかった。これらの費用が必要となるため,研究期間を延長し,次年度に使用することとした。
|