研究課題/領域番号 |
18K01907
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
野間 幹晴 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (80347286)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 退職給付に係る負債 / 特許 / 社外取締役 / 現金 / 確定給付年金 / 確定拠出年金 / 買収防衛策 |
研究実績の概要 |
2018年度は次の4つの研究を行った。第1に、退職給付に係る負債が社外取締役の導入に与える影響について実証研究を行った。具体的には退職給付に係る負債が大きいほど、社外取締役人数・社外取締役比率に与える影響を解き明かすために、操作変数トービットモデルによる実証分析を実施した。分析から、退職給付に係る負債が大きいほど、社外取締役の人数は少なく、また取締役会に占める比率も小さくなることを明らかにした。 第2に、確定拠出年金制度の導入要因を明らかにするためにロジスティック回帰による分析を行ったうえで、確定拠出年金の導入によって投資行動や株主還元がどのように変化するかについて傾向スコアマッチングによる分析を行った。その結果、退職給付債務に対して年金資産が小さいほど、また総資産が大きいほど、確定拠出年金を導入することが明らかになった。さらに、確定拠出年金を導入することで、株主還元が減少する一方で、研究開発が増加することが確認された。 第3に、退職給付に係る負債が買収防衛策の導入に与える影響について実証分析を行った。トランスファー理論に基づき、買収防衛策導入に対し退職給付に係る負債が与える影響をめぐる仮説を構築した。操作変数プロビット法を用いて、退職給付に係る負債が多い企業ほど、買収防衛策を導入する傾向が強いことを浮き彫りにした。 第4に、退職給付に係る負債が現金保有に与える影響について実証分析を行い、3つの結果を得た。第1に、退職給付に係る負債が大きいほど現金保有が多くなり、金融負債よりも退職給付に係る負債の方が現金保有を増加させる効果がある。第2に、退職給付に係る負債が多額であるほど、キャッシュフローの現金に対する感応度が高くなり、営業キャッシュフローのうち現金として保有される金額が多くなる。第3に、退職給付に係る負債が大きいほど、現金保有から投資に配分される比率が低下する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、退職給付に係る負債について4つの研究を進め、2018年度中に2つの論文を公表した。具体的には、1.退職給付に係る負債と現金保有、2.退職給付に係る負債と買収防衛策、3.退職給付に係る負債と社外取締役、4.確定拠出年金の導入に関する研究を行った。このうち、1.と2.について公表した。 2019年度にも、いくつかの研究を進めながら、いくつかの論文を公表する計画である。上記の4.については、2019年度に公表する予定である。 したがって、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度中には、少なくとも以下の4つの論文あるいは研究書の公表を計画している。 第1に、『企業会計』に退職給付に係る負債と資本コストとの関係について、論考を掲載する予定である。ここでは、改訂コーポレートガバナンス・コードによって資本コストを重視した投資計画等の議論・開示が要求されたが、その背景と日本企業の経営課題について、実証研究をベースにした議論を展開する。同時に、こうした論点について先進事例となっている3社と、私を座長とする座談会も同雑誌に掲載する計画である。 第2に、『會計』に確定拠出年金の導入が投資行動・株主還元に与える影響について、論文を執筆する予定である。本稿では、確定給付年金を導入していた企業が、確定拠出年金を導入したことによって、どのように投資行動や株主還元が変化するかについて、傾向スコアマッチングによる分析を実施し、議論を行う。 第3に、退職給付に係る負債がリスクテイクや配当政策、現金保有、ポイズンピルの導入などに関する実証研究を研究書として出版する計画である。 以上は2019年度の計画であるが、それ以降も継続的に研究を蓄積する予定である。
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