研究課題/領域番号 |
18K01910
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
北川 教央 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80509844)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 製品市場の競争 / 会計情報 / 情報波及効果 / 国際会計基準 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究(「製品市場の競争と決算発表の情報波及効果」『會計』193(5), 541-553)において、製品市場の競争が激しい状況にあるほど、決算発表の情報波及効果は弱まることが確認された。このことは、製品市場の競争が、同業他社の決算発表の有用性を低下させる可能性があることを示唆している。しかし、上記の分析では、同一業種内の企業が採用する会計基準の違いについては考慮されていなかった。現在日本では、4種類の会計基準(日本基準、米国会計基準、国際会計基準、および修正国際基準)の採用が認められている。当事企業(情報波及元企業と情報波及先企業)が同一の会計基準を採用することは、会計情報の比較可能性を高めるため、より顕著な情報波及効果を生みだすと考えられる。その一方、当事企業が異なる会計基準を採用することは、会計情報の比較可能性を低下させるため、情報波及効果の阻害要因となりうる。2019年度はこの点に着目し、情報波及元企業と情報波及先企業の採用する会計基準の違いが、分析結果に及ぼす影響について検証を行った。具体的に、日本基準を採用する情報波及元企業が国際会計基準を任意適用した場合に、日本基準を採用する情報波及先企業への決算発表の情報波及効果に変化が生じるのかについて、傾向スコアマッチング(propensity score matching)と差分の差分分析(difference-in-differences analysis)の手法を用いて検証した。分析の結果、情報波及元企業による国際会計基準の任意適用が、日本基準を適用する同業他社への情報波及効果を弱めるという証拠は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度までに、決算発表の情報波及効果という観点から、製品市場の競争が会計情報の有用性に与える影響について分析を行った。その結果、製品市場の競争が激しい状況にあるほど、決算発表の情報波及効果は弱まることが確認された。上記の分析には種々の仮定が置かれているが、これらの仮定が分析結果に及ぼす影響についても検証した。例えば、上記の分析では、日経業種分類小分類を用いて同業他社が識別されているが、そのことの妥当性について2018年度の研究(「業種分類と業種内における決算発表の情報波及効果」『国民経済雑誌』218(1), 15-32)で検証した。また、当事企業が採用する会計基準の相違が分析結果に及ぼす影響について、2019年度の研究(「IFRSの任意適用と決算発表の情報波及効果」『會計』195(5), 512-524)で明らかにした。さらに、製品市場の競争が情報波及効果の効率性に及ぼす影響についても検証を行っている(“product market competition and intra-industry information transfers” Working paper)。進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、2つの方向性を検討している。1つは、決算発表の情報波及効果の観点から、製品市場の競争が会計情報の有用性に与える影響についてさらなる検証を行うことである。これまでの研究では、製品市場の競争を業種レベルで定義していたが、企業レベルで定義した分析を行うことも可能かもしれない。例えば、製品の市場での価格交渉力(product market power)が弱い企業は、強い企業と比較して、同業他社との競争により直面することが考えられる。また、事業戦略(business strategy)が類似した企業間では、そうでない企業間よりも、より激しい競争が展開されている可能性がある。これらを定量化したうえで、企業間の競争が情報波及効果に及ぼす影響について検証を行うことが考えられる。いま1つは、決算発表の情報波及効果以外の観点から、製品市場の競争が会計情報の有用性に与える影響について検証することである。たとえば、製品市場の競争が利益特性に与える影響について、利益調整(earnings management)や保守主義(conservatism)などの観点から検証を行うこともできる。残りの研究期間を利用してこれらの研究課題に取り組みたい。
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