研究課題/領域番号 |
18K01910
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
北川 教央 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80509844)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 製品市場の競争 / 会計情報 / 情報波及効果 / 市場の効率性 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究(「製品市場の競争と決算発表の情報波及効果」『會計』193(5), 541-553)において、製品市場の競争が激しい状況にあるほど、決算発表の情報波及効果は弱まることが確認された。この研究を展開し、2021年度の研究(“Product market competition and overreaction to intra-industry information transfers,” The Japanese Accounting Review 11, pp.1-32.)では、製品市場の競争が激しい状況にあるほど、決算発表の情報波及効果に関する株式市場の効率性は低下することを確認した。同業他社の決算情報には、自社にとっての①正のシグナル(業種動向など)、②負のシグナル(業種内における市場シェアの変化など)、および③ノイズ(決算開示企業にのみ有用な情報)が含まれる。そして、これらを正確に識別し解釈することは、自社の決算情報を解釈するよりも困難であると考えられる。したがって、投資者が決算情報から他企業に関するシグナルを適切に抽出し、株価に織り込んでいるかが興味深い論点となる。本研究はこの点を検証したものである。分析の結果、業種内で先行開示された決算情報に対して、投資家は過剰反応していることが判明した。また、このような投資家の過剰反応は,製品市場の競争が激しい業種ほど顕著に観察されることも明らかとなった。すなわち、決算発表の好材料や悪材料が業種動向と市場シェアの争奪のいずれからも生じている可能性があり、情報の解釈が困難である状況ほど、過剰な情報波及効果が生じることが示唆されたのである。情報波及効果の文脈においては、製品市場の競争は、株式市場における効率的な資源配分を阻害している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過年度より、製品市場の競争が情報波及効果の効率性に及ぼす影響に関する研究を行ってきた。今年度はこの研究について改訂を重ね、学術雑誌に掲載するという目的を達成した(“Product market competition and overreaction to intra-industry information transfers,” The Japanese Accounting Review 11, pp.1-32.)。この意味において、今年度のプロジェクトの進捗はおおむね順調であったと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、本研究プロジェクトの最終年度にあたるため、研究全体の取りまとめを行い、不足している研究証拠の蓄積をはかりたい。現状では、決算発表の情報波及効果の観点から、製品市場の競争が会計情報の有用性に与える影響について研究を行ってきた。そして、既存企業との競争度が高い状況下では同業他社の決算発表がもたらす正の情報波及効果が弱まること、および当該情報波及効果に関する市場の効率性が低下することを発見している。全体として、製品市場の競争が激しいほど、決算発表から投資家が情報を抽出することは困難となることが示唆される。 残された課題としては、製品市場の競争が利益特性にどのような影響を及ぼすのかという点がある。たとえば、製品市場の競争が利益調整(earnings management)や保守性(conservatism)などに及ぼす影響は、上記の結果とも関係する興味深い研究課題であると思われる。残りの期間を利用して、この点について検証を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入した消耗品等が予定よりも安価で購入できたため、残額が生じた。必要な消耗品等の購入に充てて適切に使用する。
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