本研究の目的は,製品市場の競争度が会計情報の有用性に及ぼす影響について解明することである。市場競争が企業にもたらすコストとベネフィットについて考察することは,学術研究だけでなく規制緩和や関税などの政策決定上も重要であると考える。しかし,他の研究分野において比較的豊富な研究蓄積があるのに比して,会計学分野において市場競争の影響について解明した研究は少ない状況にある。会計情報は企業行動や証券市場の効率性に影響を及ぼす重要なインフラであるため,市場競争が会計情報の有用性を向上させるか低下させるかは,重要な研究課題であると考える。そこで本研究では,市場競争が会計情報の有用性に及ぼす影響について,とりわけ決算発表の情報波及効果の観点から検証を行った。 過年度までに得られた発見事項は以下の3点である。第1に,製品市場の競争(とりわけ既存の同業他社との競争)が激しいほど,決算発表の情報波及効果は弱まる。第2に,企業の事業戦略が同業他社と異なるほど,決算発表の情報波及効果は観察されなくなる。第3に,製品市場の競争が激しいほど,情報波及効果が過剰に生じる傾向がある。これらの結果は,製品市場の競争が,同業他社の決算発表に含まれる情報とそれに対する投資家の反応に変化させていることを示唆している。 最終年度は,上記で得られた知見を広く周知するため,サーベイ論文(「決算発表の情報波及効果-研究動向と課題-」『証券アナリストジャーナル』第60巻第6号(2022年6月),27-36頁)を執筆した。そこでは,決算発表の情報波及効果に関する先行研究の研究成果を,(1)情報波及効果の存在と範囲,(2)情報波及効果の決定要因,および(3)情報波及効果に関する株式市場の効率性に整理して解説を行った。そして,(2)および(3)において,上記の研究成果を紹介している。
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