管理会計の進化プロセス研究の事例研究として、自動車メーカー・マツダの分析をおこなった。令和2年度は、コロナ禍で想定外の状況になったが、前年度までに収集していた資料の分析を進め、研究の総まとめとなる学会報告をオンラインでおこない、査読付き学会誌に投稿をおこなった。 成果としては、まず原価企画の導入はオイルショック(環境制約)を契機とした1970年代と遅いこと、そして導入当初から「原価企画」という名称を使っていたことが確認された。先行研究により「原価企画」という名称はトヨタ自動車が独自に命名したことが明らかになっており、マツダが他社から外生的に導入したことの証左になるが、導入にあたり影響を与えた相互作用子がトヨタ自身であったのかは特定できなかった。 次に、1990年代の経営危機によりフォードの傘下に入ったのち(環境制約)、フォード(相互作用子)流のトップダウンによる厳しい財務規律のもと、「規模の経済性」の追求とグローバルなグループ内での「水平的」な部品共有化というルーティンが持ち込まれ、原価企画が強化されることで業績の回復を実現した。これは、環境制約の変化を受けたルーティンの外生的な複製であったと思われる。 さらに、2011年のフォード撤退後(環境制約)も、業績の回復という成功体験に根差した「規模の経済性」の追求というルールは保持され、マツダ単独でも実現できるように、世代内での「長期的」な部品共有化というルーティンを創り出し、コモディティサイクルプラン、コモンアーキテクチャー、グローバル最適調達、フレキシブル生産からなる一括企画の原価企画体制を構築した。これは、環境制約の変化を受けたルーティンの内生的な変異であったと思われる。 まだ未発見の文献の調査、および100周年を迎え近々に公表が期待されるマツダの社史にもとづいて、さらなる解明を進めたい。
|