本研究はコロナによる影響で1年間の延長が認められ、2022年度が最終年度となった。当初、資産計上後ののれんの処理方法を定性的視点から、日本が採用している規則償却に減損会計を適用するアプローチ(償却・減損併用モデル)と、国際財務報告基準が採用している減損会計のみ適用するアプローチ(減損モデル)のそれぞれの優劣を特定しようと計画した。しかし、想定していた研究手法でシミュレーションした結果、予想以上に研究の遂行に時間がかかることが判明した。そこで、定量的視点に研究方向の修正を決定した。 定量的視点からのれんの処理方法について検証した論文はこれまでも存在していた。しかし、その多くは、償却モデルに焦点を当てている。のれんの減損損失は手作業で収集する必要があるため、のれんの減損損失を取り上げるものも、のれんの償却費と減損損失の両方を同時に検証する論文も少なく、検証成果が蓄積されてこなかった。そこで、本研究は先行研究の結果を踏まえ、のれんの償却費とのれんの減損損失の両方(個別に検証する場合と、両者の合計額で検証する場合)を取り上げて検証することにした。 2022年度にwithコロナによる規制緩和によって、償却・減損併用モデルを多く採用していたEUの関係者が多く参加するEAA(European Accounting Association)が再開された。そこで、IASB(International Accounting Standards Board)のスタッフによるセッションからのれんの事後測定に関する最新情報を入手し、検証の妥当性を再確認することができた。 同じ償却・減損併用モデルを採用していたEU企業と日本企業を対象とする先行研究の結果と異なり、本研究は株式リターンと株価に対してのれんの償却費が有意にマイナスで、のれんの減損損失が有意ではないことを明らかにしている。
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