本研究の目的は、1.わが国企業における費用収益対応(matching)関係の現状を明らかにすることと、2.それが証券アナリスト予想に与える影響を検証することを通じて、1に対する投資家の評価を検証し、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」がもたらす影響を解明することである。まず、1を遂行するための下準備として、関連する国内外の先行研究をレビューすることと、コメント・レターの分析を行った。先行研究をレビューしていくうちに、matching関係が劣化していると結論付けたものとそうでないものが存在していることが判明した。その原因を特定することができれば、2の実証研究の仮説の土台を固めていけると考えたのである。 文献を総合的に分析した結果、その原因は、IFRS第15号の内容そのものというよりも、長年にわたるアカデミア、基準設定機関と(公認会計士を中心とする)実務家の間に存在していた費用を収益に対応させることに対する考え方の違いに起因すると特定することができた。そこで、当初の研究目的を調整し、1920年代から現在(IFRS第15号の導入)に至るまでにおける対応関係に対する上記三者の主張の変遷と相互の影響をトラッキングすることに重きを置き、対応関係の変化をアプローチの変遷という視点から、明らかにすることにした。 その結果は、「対応原則の変化が利益の質に与える影響の史的分析」と題する論文にまとめた。これまで対応概念の変化を特定の時期に焦点を当てて分析する論文は存在しているが、本研究のように、1920年代からアカデミア、基準設定機関と実務家という3つの視点から、個別かつ相互的影響を含め、対応概念の変化を歴史的・包括的にトラッキングした研究成果はかなり希少なものと確信している。また、その内容から得た示唆は、今回できなかった上記の目的2を展開するヒントとなっている。
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